【読書案内 15】不潔は悪か 「不潔の歴史」を読む | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録

 

 
 

 『イスラム教徒はキリスト教徒を 「なんでこいつら、こんなに汚いんだ」 と、
 
キリスト教とはイスラム教徒を 「なんでこいつら、こんなにきれい好きなんだ」 と、

 

お互い猜疑の目で眺めていた』
 
 
 十七世紀のパリが、ベルサイユも含め、如何に汚い場所だったか、それが
 
現在の基準からは想像もつかないレベルであったことは過去の記事
 
「食事中の方、超閲覧注意。ベルサイユのばらの香り」 に書きました。
 
 どうしてこういうことになったのでしょうか。今回、ご紹介する本は、
 
キャスリン アシェンバーグ著  「図説 不潔の歴史」 です。
 
 
図説 不潔の歴史  
 
(日本語版はえらくお高いですが、英語版で良ければリーズナブルな値段で買うことができます)

 

The Dirt on Clean: An Unsanitized History (English Edition)  
 

 
 ご存知のように、かつての古代ローマにはカラカラ浴場のような超巨大
 
スーパー銭湯がありました。その巨大さと機能性は、殆どひとつの都市に
 
匹敵するほどのものでした。それがどうして、全くヨーロッパから姿を消したの
 
かというと、キリスト教が魂の優越を強調するあまり、肉体を磨く入浴を堕落
 
と決めつけたからでした。
 
 

 ある修道僧が砂漠の洞窟に住む隠者を訪ねた時、その栄誉に預かる幸運を次の謙譲
 
の言葉で伝えた。 「私は貴方の匂いを何マイルも先から感じておりました」 

 
 
 当時の人々はそんな臭いの中に暮らして平気だったのでしょうか? そう、平気
 
だったのてす。全員が臭いのであれば、人間の鼻は慣れて何も感じなくなるの
 
です。
 
 

 天正の少年使節が訪欧した時、伝説だと思っていた 「毎日風呂に入る人たち」 
 
が本当にいることを知って、ローマは興奮の坩堝と化した。

 
 
 間の紆余曲折は省きますが、こうした状態は十九世紀になっても大して変
 
わりません。映画 「マイ・フェア・レディ」 を見たことのある方なら、
 
イライザがヒギンズ教授の所で無理矢理風呂に入れられる場面があるのを
 
覚えている方も多いでしょう。この時、イライザは大暴れしてこう叫びます。
 
 「風呂に入ると死んじゃうんだよ!」 
 
 しかし、意外だったのですが、この本を最後まで読んで初めて分かるのですが、

 

真の主題は過去の倒錯した衛生観念を語ることでは無く、現代の倒錯を告発する
 
ことにあありました。
 
 すなわち、特にアメリカで顕著な行き過ぎた衛生観念に警鐘を鳴らすことが、
 
この本の本当の目的だったのです。
 
 

 俳優がヨーロッパ人かアメリカ人であるかは、その歯並びを見ると容易に
 
判別することができる。アメリカ人俳優は、自然の状態ではあり得ないような
 
きれい過ぎる歯並びをしている。

 
 
 かつてキリスト教によって歪められた衛生観念は、ここ百年足らずの間に、
 
資本主義という新しい宗教によって、全く逆の歪められ方をしているのです。
 
つまり、 「制汗剤を売るために体臭は罪とされ、洗口液を売るために口臭は
 
罪とされ、洗面用品を売るため、不潔は絶対の罪となった。かつて一軒の家
 
に一個のバスルームも贅沢だった。しかし、今や家族ひとりにつき複数の
 
バスルームがある家も珍しくない」  これが現代であると著者はいいます。
 
そして私たちは、その倒錯の報いを受けつつあると告発するのです。
 
 

 ドイツの学者が、体質的に近縁にある二つのグループを使って、衛生状態
 
が健康にどのような影響をもたらすかの調査を行った。東ドイツの子供たち
 
のグループと西ドイツの子供たちのグループを比較して、喘息、アレルギー
 
の発症状態を調べたのだ。当然、衛生状態の悪い東ドイツの子供たちの方が
 
疾患の発症率は高いと思っていた。
 
 が、結果は全くその逆だった。

 
  
 つい先日12月21日に以下の記事を目にしました。参考までに。
 
 
「アトピー、中高生が過去最多 幼稚園児は過去最少」 
 

 「抗菌、除菌グッズが増え、子育て環境は清潔になっている。こうした環境
 
で育った子供は免疫を十分獲得できず、成長過程でアレルギー体質になり
 
やすいと言われる」 

 
(記事より抜粋)