デリー、メイン・バザール | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録



 デリー到着と共に飛行機内での痛い騒ぎも終わり。 ここからは本来のハー
 
ドボイルドな自分を取り戻し、孤独な旅の始まりとなるはずでした。
 
 
 ところが……
 
 
 個人旅行者のバイブル「地球の歩き方」の記事に従って、市内行のバスを
 
待っていたのですが、そのバスが待てど暮らせどやって来ない。 何かの間

  

違いかと思って、近くのインド人に尋ねてみても、情報が正しいのか間違っ

 

ているのか、どうも要領を得ません。
 
 その内、辺りは暗くなってきたのですが、辛抱強く待っているのは自分以
 
外、 同じく「地球の歩き方」を手にした日本人のカップル二組だけという異
 
常事態に。
 
 当然、日本人同士、相談が始まります。
 
「インド人にも聞いてみましたけど、間違ってないと思うんですけど」
 
「他の人たちはどこに行ったんですかね?」
 
「バスが来る気配が全く無いですよねぇ」
 
 
 インドと西洋では旅をする上で大きく違う点があります。
 
 ここでは、わけの分からない状況に置かれて、日本人の旅行者同士、団結
 
するのです。
 
 イタリアを旅行した時は、日本人と喋る機会は殆どありませんでした。
 
日本人かな?と思っても、暖かく無視するというか、お互い積極的に関わる
 
ことはありません。
 
 しかし、インドでは全く違います。 ここでは同じ日本人と見れば、声を

 

掛けあい、助け合うのです。 この後、行く先々で素晴らしい日本人旅行者

 

たちと出会うことになります。
 
 
 結局、私たちは五人で費用を折半し、タクシーに乗ることになりました。
 
こんな展開になるのも、インドならではですね。
  
(注)  この二年後、2011年2月にエアポートメトロが開通しています。 これから行く人は迷わ

 

こちらに乗りましょう。 何の問題もなくデリー入りというのも少し味気ないと思うかもしれま

 

せんが、そもそも市内に行くだけで、こんな騒ぎになることがおかしいのです。
   
   
 タクシーの助手席に座っていた私に、運転手が話し掛けてきました。
自分

  

の知ってるホテルに連れて行こうとしてるな、と思った私は、早速、嘘を言い

  

始めました。もう夜なのに目的地以外の場所に連れていかれたら堪りませ

 

ん。
  

 
「旅行で来たの?」 と運転手
 
「違うよ、仕事だよ」 と私。
 
「ホテルは決まってる?」
 
「もう予約してある」
 
「メイン・バザールに?」
 
「そこで友達と会う約束があるんだよ」
  
 
 本当のことなんか一言も喋りません。
 
 どこからどう見ても旅行者に見えたはずですが、そんなの知ったこっちゃ
 
ありません。 相手を混乱させるのが目的なのですから。 左手に地図、首から
 
カメラ、右手に双眼鏡を持っていても、自分は旅行者じゃないと言い張ります。

 

 この嘘つき大作戦も、タイのバンコクで、自分は美術教師だという男に、
 
いい寺院があると言われてリキシャに乗せられ、土産物屋を連れ回された挙
 
句、私が土産物屋に入ろうとしないので男がついにぶち切れ、どこだか分か
 
らない所に置き去りにされた苦い経験から身に付けたものです。
 
 これ以降、現地の人から、ここに行ってみろと勧められたら、行かないと
 
答えます。 仏教美術に興味ある?と聞かれたら、無いと答えます。 ドラッグ
 
いる?と聞かれたら、いらないと答えます。 女の子に興味ある?と聞かれた
 
ら、無……くもない、かも。
 
 冗談はさておき、嘘つき大作戦が功を奏したのか、きっちり目的地点でタ
 
クシーを降りることができました。
 
 ここから、今度は宿捜しです。
 
 私は最初から目的のホテルがあって、他の方にそのホテルの話をしたら、
 
それじゃ自分たちも、ということになり、五人でホテルに向かいました。
 
 カップルの二組は結婚しているわけではないということは道中聞いていま

 

した。 宿に着いた私は、初めてのインドで余裕が無かったせいでもあるので

 

すが、このことで、ちょっと失敗してしまいました。 ホテルのオーナーに 「ダ

 

ルを二部屋、シングルが一部屋、必要なんだけど」と言ってしまったのです。
 
 後から考えると何とデリカシーの無い発言でしょうか。 カップル二組まと
 
めて、ラブホテル入り扱いです。 二人がどんな関係かも知らないのに。
 
「あんたとダブルベッドなんてやだなあ」 と女の子が呟いたのを聞いて、
 
初めて自分がとんでもないことを言ったのに気が付きました。
 
 あの時はごめんなさい。 反省しています。
 
 
 結局、そのホテルは部屋が空いていなくて、別のホテルに移動、やっと寝
 
る場所が決まりました。
 
 袖擦りあうも何かの縁。 折角だから、みんなで夕食を、ということになり、
 
荷物を下ろしてから、五人で夜のメイン・バザールに繰り出します。 とても
 
一人旅をしているとは思えない、賑やかなインド初めての夜です。
 
 

インディラー・ガーンディ国際空港

バスを待ってる間に夜になってしまった。





  

インド人が元気付けてくれる動画、その2