「新聞やTVを見てごらん。私が描くものは到底、今の世界の恐怖には敵わないよ」
(フランシス・ベーコン)
アイルランド出身の画家、フランシス・ベーコン (1909~1992) は、現代美術に異様な足跡
を残しました。その最も著名な作品が、ベラスケス作 ローマ教皇インノケンティウス10世の
肖像をモチーフにした連作です。
フランシス・ベーコンの父親は元軍人であり、息子に対しては時に肉体的な折檻を伴う厳
格な態度で接しました。父親は或る日、母親の下着を身に付けた息子を目撃、息子を家から
追い出しました。 同性愛者であったフランシスは、後に、男らしい父親に性的に惹かれてい
た、と述懐したことがあります。
現在ほど性的マイノリティが認められていなかった時代、この画家が抑圧的なカトリック教
会に対してどのような感情を持っていたかは想像に難くありません。彼がベラスケスの描き
出した 「聖人の面影など微塵もない俗物、ローマ教皇インノケンティウス10世像 」 を見た時、
それをモチーフに多くの習作を描かずにはいられませんでした。
――恐怖、諧謔、憤怒、虚無、破壊。
作品は徹底的な負の感情で見る者を圧倒せずにはおきません。
何と! 現在、「東京国立近代美術館で フランシス・ベーコン展 」 が行われています。
直に作品に接する滅多にない機会だと思います。ご都合の付く方は美術館に足を運んでみて
は如何でしょうか (2013年5月26日迄)