「黒死病が流行った時代には、マレド近郊にも村人が全滅して、その
まま打ち捨てられた集落が幾つもあると聞きます。 この家にもそんな記憶が
秘められているのかもしれません」 (第2部 「異端の谷」、第1章「アンナ」、第2節より)
現代にあっては――私のように特定の宗教に属さない人間であればなお
さらですが、――近代以前を生きた人々の宗教的熱意はなかなか実感として
感じにくいのではないかと思います。しかし、死が常に隣にあるような状況に
あれば、人は誰でも神にすがる気持になるのかもしれません。
中世のヨーロッパを襲った黒死病は、1347年に最初に出現して、わずか5年
ほどの間に約3500万人が犠牲となり、ヨーロッパの人口を半分にしてしまいま
した。人はその惨禍を見て、黙示録の時至りぬと考えたとしても何の不思議も
ありません。
ここに黒死病の惨禍を徹底したリアリズムで表現した人物がいます。
ガエターノ・ジュリオ・ズンボ (1656-1701)。――この謎に包まれた蝋細
工師は、ナポリで黒死病の惨状を描いた絵を目にしました。
Neapolitan plague of 1656 by Mattia Preti
そして、これを蝋細工にした作品によって認められ、メディチ家の庇護を受けま
した。 彼はその作品を通じて、人間が分解していく様を執拗に追及し、人の生の
虚しさを表現した作品から、解剖学的標本まで、様々な作品を残しました。 一体、
何が彼をこのような作品に駆り立てたのでしょうか。
作品は フィレンツェ、ラ・スペーコラ博物館 <La Specola> で見ることができます。
Youtube にもビデオがありましたが、ズンボの作品もさることながら、ビデオ自体
が狂気を感じさせるものなので、耐性のある方のみ、ご覧になっていただきたいと
思います。
来週の水曜日(2/6)は、「黒死病の謎」 についての記事をアップします。
Le Cere della Peste, di Gaetano Zumbo