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第4章第一節は6月16日に投稿します。
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第三章「星を見る修道士」
5
この長々とした話に夢中になっている間に、私たちは既に林を抜け、丘の上に
まで来ていました。 私の話も漸く終わりに近づいてきました。
「この若き聴聞僧エミリオは、あらゆる事案を調べた結果、全ての魔女に関す
る告発は冤罪であるという結論に達したようです。 しかし、下手に教会を批判
したのなら、自分の身が危ないと考えたからなのかもしれませんが、彼は自分
の考えについて主張することはおろか、他の者と話し合おうとさえしませんで
した。 ただ一人の例外を除いては。
その例外がセルジョ士です。 惜しくも、今は神の御許に召されましたが、お
亡くなりになる前年、私がマレド近郊にある修道院を訪ねた際、私がマレドの
異端審問の行方を心配しているのを知って、最適の人間がいると言って、エミ
リオを推薦したのです。
あの方はエミリオを大層気に掛けていて、「彼には真実を知る権利がある」
と、苦しそうな息で何度もそう仰っておいででした。 奇しくも、それが遺言の
ようになってしまいましたが、あの方の最後の頼みとしても、私はこれを実現
させたいのです。
その後、私もできる限りはそのエミリオという男について訊ねてまわりまし
たが、特に親しくしている者もなく、どうにも謎の多い男ではありました。 が、
実際に会ってみれば、 『 これまでの自分の経験をマレドで生かしたい、決し
て、あなたを失望させるようなことはいたしません 』 と、ただそれだけしか
言わない、非常に謙虚な人間に見えました。 先の審問の話も聞いていたの
で、この男なら期待に応えてくれるだろうと考えた次第です 」
「なるほど、よく分かりました」 ダミアーノは静かに言いました。「 その人物
についても、そして、貴方のお考えについても。 その男なら必ず異端審問を
本来のあるべき方向に導いてくれるでしょう。 貴方の慧眼にも敬服します。
勿論、私にできることはさせていただきますよ。
平信徒たちはドミニコ会の修道士を指して、神の犬などと陰口を叩いていま
す。 中央の僧侶たちは宮殿のような教会で奢侈に耽り、一方で民衆には重
税を課しています。 免罪符を乱発し、金さえ払えば殺人にさえも許しを与える
一方で、異端審問と称して問答無用の断罪をする。 こんなことが続けば、い
ずれカトリック教会は危うい立場に置かれることでしょう。 イングランドでは清
教徒たちによる革命が完遂しました。 カトリック教会から民衆の心が離反した
時には、アイルランドで起こっているような旧教と新教の内戦が、ここでも起こら
ないとも限りません。
かつてカトリック教会が中心となって世界がひとつとなった時代のように、
教会が誠の意味で民衆を護り、その信頼を取り戻す時が来る時まで、我々は
もっと試される必要があるのかもしれません 」
折しも、丘の向こうに太陽が沈みつつあり、私たちに残照を投げかけており
ました。 私がその眩しさから目を逸らして空を見上げると、鳥たちが声を残し
て、太陽に向かって飛んで行くのが見えました。
「 それにしても、私のような凡人には理解できません。大地が太陽を中心に回
っているという連中は、この沈みゆく夕日を見ても、そのように考えるのでし
ょうか。 例えば、大地が動いているのなら、飛んでいる鳥は空に置き去りにさ
れてしまうのではありませんか? しかし、鳥たちは自分の目指す所にちゃん
と辿り着きます。 枝から離れた林檎は、そのまま真っ直ぐ大地に落ちてくるで
はありませんか。 大地が動いているなら、林檎は横に飛んでいくはずです 」
「 フェルナンド士、それを言うなら、なぜ林檎が下に落ちるのかを問うべきで
しょう 」
「 物は上から下へ動く。 それが神の定めた摂理だからです。 なぜ、それで
は駄目なのですか 」
「真実がそこにあるのであれは、それを明らかにするは我らの務め。 それが
神へと至る道の一つと考えるからです。 なぜ物が上から下へと動くのか、いず
れ、その謎を説明する者が現れることでしょう 」
「 しかし、ダミアーノ士。 本当のところはどうなのです? あなたは教会の言
う通り、動いているのは太陽の方だと考えておられるのですか?」
ダミアーノは私の顔をまじまじと見て言いました。
「 あなたは私にそれを言わせようというのですか?」
私たち二人は声を出して笑いました。 既に修道院から遠く離れていたのは幸
いでした。 ドミニコ会の修道士が二人、丘の上で声を上げて笑っているのを見
られたなら、何と言われるか、分かったものではありません。