中世キリスト教世界で行われた拷問は、手足を縛って水に投げ込むような単
純なものから、建物の構造そのものが拷問だけを目的としているような大掛か
りなものまで、目が眩むほど多彩な様式があります。人が人を苦しめるために、
どれほどの創造力が駆使されているかを見る時、人間の本質とは何なのか暗
い認識を抱かずにはいられません。
特に中世キリスト教教会で異端審問の際使用された拷問用具には、こんなも
のが必要なのかと思えるほど、その苦痛を視覚的に訴えてくるものが数多くあ
ります。
その代表選手が「鋼鉄の処女 (Iron Maiden)」 と呼ばれるものです。
見た目にはマトリューシュカのような可愛らしい人型の容器なのですが、その名
の通り鋼鉄で作られており、蓋を開くと内側に中心を向いてびっしりと鉄の針が
突き出ているという代物です。普通に考えて不思議に思うのが、なぜ拷問を行う
のに、こんなに造形的レベルの高いものを作らなければならなかったのか、と
いう点です。
しかし、それは冷静に拷問の目的を考えてみれば分かります。教会は被告に
罪を認めさせることだけが目的なのであって、「教会は血を流さない」という
原則に従えば、被告を殺してしまうことは、実は絶対に避けなければならない
ことでした。このため、優れた刑吏は同時に優れた医者でもありました。拷問
を受けて死にかかっている被告をせっせと手当して、次の拷問に備えさせたの
です。
「鋼鉄の処女」のように、その恐怖を容易に想像させる器具は、被告を殺さず
に自白を得るためには、非常に理に適った道具でした。「罪を認めないなら、
お前をこの中に入れて、扉を閉めちゃうぞ、ほら、ほら」 などと言いながら、
可愛らしい人型の蓋を空けられて、鋼鉄の針を見せられたなら、その印象の落
差も手伝って、恐怖のあまり大抵の人間なら (女性なら特に)、どんな罪でも認
めてしまったに違いありません。
従って、このような器具が実際使われることは (あまり) 無かったと考えら
れます。この中に人を入れて本当に蓋を閉めたのなら、例え引田天功であって
も生きて出てこられるはずがないからです。
・・・・というような記事を書くつもりでいたのですが、いろいろ調べてい
ると、自分の意見に自信が無くなってきました。以下のリンクを見ると「鋼鉄
の処女」が実際に使用されていた可能性が伺えます。
( リンク先閲覧注意!)
ロシア・サンクトペテルブルグ博物館にある拷問器具コレクション
今、私たちは戦争にさえヒューマニズムが要求される時代を生きていますが、
アブグレイブ刑務所の捕虜虐待や対テロ戦争でのCIAによる拷問などの問題が
起こっていることを知っています。
私たちは本当に中世の人々と比べて、少しでも進歩しているのでしょうか。
進歩していると信じたいものです。
