Uターンがめんどくさくて、何となく違う道を進んだのが、そもそもの始まりだった。

当たり前に、現在地不明になり、やっぱりUターンをした。

元の道に戻ったが、逆から来ると、よく分からない。

方向音痴のくせに、太陽出てないのに、地図を良く確認しないで、勘と記憶の方角で走り続けた。

帰宅ラッシュが始まりかけている。早く市街抜けなきゃ。

あまりに見た事が無い景色だからと、ようやく地図を見た。

どこだ?まさか…

居る予定の場所から、視線は少し遠くへ。

嘘でしょ…?

180度方向が違う。

あの混み合う中に戻るより、次の交差点の170号線から回った方がいいな。

辺りは薄暗くなっていた。

ついに帰宅ラッシュのど真ん中。

進まないし、みんなイライラしているのか、運転が荒い。

雨は容赦無く降り、私の雨具は、まったく意味のない物になっていた。

すり抜けながら進むが、信号が多く、最速で3速。

あまりに疲れたから、休憩をとり時間を見たら、京橋を出てから2時間が経っていた。

進んだ距離、20Km。

今日、和歌山に入る予定だったが、あきらめた。

ケータイでネットカフェを探し、方角から、泉佐野に向かう事にした。


時間と共に、車は減って来た。

真っ黒な濡れた道は、対向車のライトを跳ね返し車線を消す。

しかし、私は何も感じなかった。

無理な追い越し、煽りにも、何も感じなかった。

私は、ひたすらストイックに、バイクのエンジン音と、たたき付ける雨音を聞き、
体の調子を伺っていた。

ずっと同じ姿勢で、雨に打たれ、震えながら渋滞を走って来たのは、
自分が思うよりずっと負担になっていたようだ。

クラッチを握るたび、接触不良の様に不愉快な痺れが中指に走る。

アクセルを握る右手の親指は、痺れたのかもはや感覚が無い。

眠気は無い。

でも、覚醒もしていない。

トリップしてるんだろうか…。

パンツまで冷たく湿り、靴は水槽と化す。
体の至る所に、冷たい雨が滴っている。

首が、肩が重い。

腰が鈍い痛みを訴える。

しだいに腕全体が痺れて来た。


後、30Km。


雨の夜、スピードは出せない。

長い。遠い。


まだ限界じゃないよね?

まだ走れるでしょ?

判断力は生きてる?


このままじゃ、風邪を引く。

その辺のホテルに入るか?

いや、今日お金下ろしてないから無理だ。


私はストイックにただ走った。


ネットカフェに着いた時には、倒れるんじゃないかというほど疲れきってた。

ブースに入ったら、濡れた服を着替え、まず横なる。

明日に引きずっちゃダメだ。

ホットミルクで体を温め、早々と寝る支度をした。