亀徳港を出港。
船は揺れ、また酔いそうだった。
甲板に出て、ビールを飲む。
奄美大島には寄らない。
朝が来るまでフェリーの旅だ。
太陽がどんどん傾く。
私は、ただそれを見ていた。
雲があって、水平線には沈まなかったけれど、雲と太陽の織り成す今日だけの夕日。
ついに、帰るんだ。
北上はしていたけれど、島を渡っていたから実感は沸かなかった。
一度行った鹿児島に向かっている事が、本当に復路であるのだと感じさせた。
夜8時過ぎ、名瀬港入港。
ここに、居たよ。
つい何ヶ月か前、ここに、S氏と立っていた。
たまらなくなった。
切なくて切なくてたまらなかった。
たくさんの別れが頭に浮かび、身動きが取れなかった。
離れて行く名瀬港を見届け、私は床に着いた。
両隣は子供。
寝相が悪くて背中をドン!と蹴られる。
ぬっ!と振り返ると、スヤスヤ寝ている天使。
ほんわ~…
気付いたら朝。良く寝た~!!
明るくなっていたから、甲板に出てみた。
目に飛び込んできたのは、見事な円すい形の開門岳。
着いた!九州に着いたよ!
そびえ立つ山々は、威圧感に満ちていて、その姿に感動し、そして旅の終わりに向かっている…と強く感じた。
鹿児島新港に入港し、フェリーを降りた。
一度しか来た事のない鹿児島市なのに、懐かしい安心感。
沖縄に行く前に通った道。
あの時は、S氏と共に走っていた。
思い出す。
何となく覚えていた道を走り、向かうのは前回行ったレッドバロン。
相棒のメンテをしてもらおう。
この道曲がった事あるから、きっとこっちだ!
ん?見たこと無い道になったぞ。
今更地図を見る。
間違えてるし。
元の道に戻るにも間違えてるし。
でも、一度通ってるから余裕~。
レッドバロンでオイル交換と簡単な点検をしてもらう。
タイヤはやっぱり岩手まではもたなそうだ。
整備士さんとお話しながら待つ。
領収書に「良い旅を!」と書いてくれた!ありがとう!!
出発!
目指すは開門岳。
あの円すいを近くで見よう!
喜入の道の駅までは、一度来ている。
ああ!覚えてるココ!!
見える海は、もう南国の海ではないけれど、懐かしさを感じる紺色の海。
壁のように山がそびえ、家並みは見慣れた日本家屋。
帰って来た。帰って来たんだ!
植物はまだ亜熱帯のヤシやソテツだけど、「帰って来た」が、私の頭を満たした。