ウィルソン株を過ぎた辺りから、空模様が一変した。

そして、S氏の様子も一変した。

先程まで、私よりぐったりしていたのに、ランナーズハイの様に、急に生き生きしだす。

アドレナリン出てるね。

代わりに、私がダウン。

もはや口を開くのも億劫。

降り出した雨が、さらに私の気力を削ぎ落とす。

(か、帰りたい…。)

口には出さなかったし、実際、帰る気は無かったが、
その言葉が、私の頭を支配した。

片方が元気だと、片方がやられる。

ほぼ無言で階段を登り、最後の難関を越えたら、神様があった。

白い肌は、一際浮き立ち、オーラのように霧を纏っていた。

紀元前から生き続けた、まさに生き神のように、山にひっそりと君臨していた。

リアクションを取る余裕はなく、無表情で眺めたけど、確かに心が震えた。


彼(何となく男な気がする)の生きた時間と、人間の生きた時間を重ね合わせてみて、その長さに、敬服した。

土砂降りで、電子機器が使えず、写真は防水のデジカメでしか撮れなかった。


行きはよいよい…じゃなかったけど、帰りも怖い。

下りとはとても怖い。

山道もさる事ながら、トロッコ道をまた通るのか…。

でも帰りだから、まだ少し気が楽。

少し慣れた、高い橋を渡り、長い長い長ーいトロッコ道が終わる。

生還。

雨は上がり、日も出ていた。

林道を抜ければ、今日の冒険が終わる。

ヘビィな2日間。

でも、見た物は、足の痛みよりも強く、私の心にグッサリ刺さっている。