山の頂を目指す。


あまりに重い荷物に幾度となく膝折ながらも、歩みを進めた。

山頂を見て、さらにその奥にあるたどり着きたい場所を目指した。

「ここまで頑張ればなんとかなるぞー」

上から聞こえるその甘言を信じて、一人では持ちきれないほどの荷物を必死に運んだ。

でも約束の場所を過ぎても「ここ」が来ることはなかった。

それでもさらにたくさん増えた荷物を抱えて頑張った。

重いのが、当たり前になっていた。

もはや、道が合っているかさえ分からない。


膝が揺れ、腰が砕けてから、気づいた。


「これ、一人分の荷物じゃないな」


また上から、声が聞こえる。

「こんなのみんな抱えてるぞー」

私は回りを見渡した。

荷物の量はみんな違った。

装備も違った。

見回していたら、次々と声をかけられた。

「あなた、随分荷物をしょいこんでいるわね」

「その装備でそんなに運ぶのは無理よ」

スッと隣に、同じ柄の荷物を抱えた人が来て、誰にも聞こえない声で呟く。

「荷物、一緒に下ろしましょう」

下ろしていいの?
いいならすぐに下ろしたい。けど…

「その荷物、誰の?」

色んな人の。

「何であなたがそんなに持ってるの?」

預かったから、私が運ばないと。

「落ち着いて。よく見て、自分を。」

自分を見渡した。

私の装備では、もう山頂を目指せないことに改めて気づいた。


その人は、目の前で荷物を下ろして、私の荷物を少し持って先に進んでいった。


また回りを見渡した。


私に向けられる視線は、一様に「同情」だった。



私は、荷物を下ろすことに決めた。