とある週末の帰り道。
東の空には稲光、なのに西の空からは傾き始めた太陽が街を照らしていた。
暗くて明るい雷雲に、二重の虹が走っていた。
向かうお家の上に、虹の架け橋。
素敵なことが起こる予感。
何故だか休みの日は雨ばかり。
ようやく晴れた日曜日。
久しぶりに磨き上げた相棒に、いつもより少し誇らしい気持ちで跨る。
8月なのに、夏の終わり。
すすきが、あんなに大きくなっている。
見ごろを迎えた百日紅が、やわやわと風になびいている。
日差しはこんなに眩しいのに、なんでこんなに涼しいの。
たくさんのバイクが通りすぎる。
ピースをくれたり、ハングオンに夢中になってたり、それぞれのライディングスタイル。
いつもなら、喜んでテンションが上がるけど、何故だろう?
何だか寂しい。
どこまで走っても、どんなに美しい山を見ても、ただ寂しい。
何故だろう。
無性に父さんを思い出す。
戻ろうかと何度か葛藤して、幾度目かの道の駅に寄ったところで帰ることにした。
踵を返してからは、ただ、帰りたかった。
また訪れる週末。
窓際にあるベッドから、珍しく清々しい青空が見えている。
そのあまりの清々しさに、布団に入ったまま窓を開けて外の空気に触れてみたけど、
もう夏のものではなかった。
焼き付く日差しはもうない。
気温が上がっても、もう盛夏のものじゃない。
それが心地よくて、穏やかに布団に包まった。
ロングスリーパーなのに眠るのがへたくそな私は、眠りに対する執着心が強い。
こんな風に、時間を気にせずに寝ても寝なくてもいい状況こそが癒し。
眠れなくてもいい。まどろんでいれればいい。
夜のとばりが下りるころ、少しひんやりする外に出た。
昨日切った髪がスースーしてる。
やっぱり短い髪がいい。
爪の跡みたいに鋭い生まれたての三日月は、真っ黒の樹影が額縁を作ってより明るく輝いてた。
まだ少し、西の空が明るい。
夜の空と混ざる夕焼けの、何色かもわからないグラデーションが美しい。
幸せだ。
なんて幸せ。
素敵なことは、内と外にある。
外にもあった。
そして内にもあった。
虹は架け橋。
橋でどこに向かうか、ようやく決まった。
向かう先が見えれば道はつながる。
きちんと向かえるかなんてどうでもいい。
「月がとっても青いから、遠回りして帰ろう」
何故か昔から頭から離れないフレーズが、最近とみに身に染みる。
随分遠回りしてるけど、いいの。
「月が綺麗だから」もっと遠回りして帰る事にする。