ひたすらに走る。

右手の山から、入道雲が迫って来ていた。

なだらかなカーブ。

穏やかな街。

入道雲の横には虹。

ひたすらに走る。

見たことのある道。

2年前のラストツーリングの時に通った道。

その時に寄った道の駅おがちに再び立ち寄る。

ユースで貰った桃を貪るミサトちゃん。
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食べ終わったら、出発。

またひたすらに走る。

奇跡的に雨を避けて来れたけど、道はいよいよ積乱雲の下へと向かい出す。

日が暮れた頃、岩手に入り、往路で通った沢内への分かれ道へ着いた。

これから向かう先の空は真っ黒で、唸り声の様な雷鳴が響いていた。

一旦道の端へバイクを停め、もしもの為にカッパを着込む。

竜巻警報が発令されていた岩手県内を走るのは、かなりの覚悟が必要だった。

「危険なら無理はしない」
を合言葉に、私たちは突入した。

真っ黒な空を閃光が走る。

遠くで光ったと思えばすぐ頭上で光る。

轟音が追い掛けて来る。

生きた心地がしない。

しかし、雨には当たらなかった。

ピークは上手く外している様だった。

人里を離れ、峠に入った。

もし落雷があっても避難場所が無い為、祈るように駆け抜けた。

雷鳴が轟く。

えもいわれぬ焦りが思考を支配した。

盛岡市へ近づくと、道が濡れていた。

雨が降っていた様だ。

コンビニの看板が見えた時の安堵感たら無かった。

迷わずピットイン。

すると、ついに雨が降り出した。

一気に土砂降りになったが、去るのも早く、すぐに小降りになった。

止むのを待っててもキリが無いので、まだ雨が残る夜道を走り出した。

後少し。

街中へ着いた頃には、もう雨は上がっていた。

後少し。

いくつかの交差点を通り過ぎ、信号でミサトちゃんと別れた。

お互い無事に帰宅する約束をして。

別れてすぐに走り慣れた道へ入り、行きつけのスーパーでビールを購入。

そして、嵐を駆け抜けた戦士は帰還を果たした。


自分の城にて装備を脱ぎ捨てた。

けだるい体をソファーに預け、喉を鳴らしてビールを飲む。

その贅沢な瞬間を彩る、夏の出来事、そのカケラ。