ICUから驚異のスピードで一般病棟へ戻った父。

こちらとしては驚異的なのに、本人は焦ってた。

そして、酷く混乱していた。

それは私達が思いもよらないほどに。

けれどよく考えれば至極当然な事だった。

一週間意識が無かったのだから。

日付感覚、時間感覚は麻痺し、
動かしにくくなった体は「早く良くならなきゃ」という焦りに拍車をかけた。


喜ばしかったはずの一般病棟に戻ってから数週間は、むしろ辛いものだった。

混乱し焦る父は、心ない言葉を投げつけてくる事も多々あり、
一番側にいた母が参ってしまって、
たくさん動いてくれる姉が憤慨してしまう事もあった。

でも、そんな時に姉のパートナーが教えてくれた。

この父の状態は『せん妄』という名前があって、1、2週間で落ち着くらしい。

その事を知るだけで良かった。

父の人が変わってしまったんじゃない。

そういう『状態』なんだ。

先生に聞けない事を掬い上げてくれてる姉のパートナーが、いてくれて良かった。


焦る父をなだめるのに、たくさんの言葉はいらなかった。

「一日中ここに居るから気づかないだろうけど、見舞いに来る度、毎日どんどん回復してるんだよ。驚異的なほどに。」

父はその事に驚いて、また、納得した様子だった。

そんな分かりやすい変化すら、焦りは見えなくしてしまう。

そして、母や姉が頑張って踏ん張って、

徐々に、元の父に戻った。

リハビリでは立つ練習まで始まっていた。