忘れられない。

どうしても忘れられない事がある。

入院当初、血しょう板の輸血をした時、アレルギー反応が出て急激に熱発した時の父の言葉だ。


「びっくりさせたね…。」


急激な発熱は悪寒と共に来る。

まんがでしか見たこと無い様な震えが起こった。

顔色は見る見る変わった。

父が、父では無く、『白血病患者』であった瞬間だった。

怖かった。

ただ怖くて、動揺する気持ちを押し殺すのに必死だった。

そんな私の様子を感じ取っての一言だったのだろう。


私と父は、良く似ている。

精神的な弱い部分が、とても。

だから、母や姉にうんとわがままを言っても、
うんと不機嫌な顔を見せても、

私には、いつも通りの自分であろうと、どんなに具合が悪くても、
冗談に口を綻ばせたりしてるんだろう。

それを踏まえて、私は、あえて冗談ばかり言うし、あえて仕事の悩みも言う。

私は心配を「かける」係。

ねえねえ聞いてよって。

お父さんならわかるでしょ?って。


だから、明日から抗生剤を止めるからって、もし熱が上がっても、頑張って。

この「心配な子」を支えるの。

何かあっても、まず「びっくりさせたね」って私を落ち着かせる為に、

気丈に振る舞う母と姉を労う為に。


白血病だろうと、お父さんはお父さん。

頑張ってね。