慌ただしく九州を脱出した。
関門トンネルを抜けて、山口県を走る。
国道まで迷うかと思ったけど、全然間違わずに、海沿いの191号に出る。
街は混み合って思うように進めなかったけど、海に出る頃には車通りも少なくなっていた。
帰りは日本海側を通る。
遠回りになるけれど都会を避けたかった。
いつか見た、山口の海。
眩しい太陽の光を反射して、水平線が白い。
濃厚なコバルトブルー。
道はツギハギだらけで決して走りやすくは無いけれど、今から嫌というほどバイクで走れることが嬉しかった。
北九州おやじさんオススメスポットの海。
沖縄の海の様に鮮やかでもあるけれど、内地の海の深くて重い青さも湛えている。
本当に美しかった。涙が出るほどに。
みんなに見せたい。
みんなに、今の私が感じているこの全てを見せたい。
日本海側を選んで正解だった。
太平洋側の都市部を選んでいたら、きっと先に進む為だけに走っていた。
カーブを描き、流れ、どんどんと表情を変える道に、私の感覚がどんどん研ぎ澄まされてきた。
剥き出しの粘膜のように。
私、今回は『旅行』だと思ってた。
でも、バイクで走り、人と出会う。これは『旅』。
時を忘れて走り続け、お尻の痛みで休憩をしていなかったと気付いた。
島根県に入っていた。
道の駅で休憩を取ると、日が沈む時間になっていた。
やっぱりこっち側を選んで良かった。
家に帰るまで、ずっと毎日夕日が見れる。
道の駅を出発して、走りながら海を見た。
立ち止まらずにはいられない。
空気の色まで変えたように、視界が薄紫に染まる。
ありがとう。また明日。
日が落ちると、段々暗くなってくる。
薄暗くなった海沿いに漁港の明かりが浮かび上がってきた。
自然と共に懸命に生きる人の営みが見える漁港が好き。
真っ暗になるのは早かった。
今日は鳥取県までは入りたかったから、暗い道を走り続けた。
もったいないかとも思ったけれど、心配性の私は、とりあえず先に進みたかった。
ここは日本一周で通った道。
思い出す記憶。
切ない。
ずっと走っているけれどいつまでたっても鳥取に入らない。
半分朦朧としているのか、トリップしてるみたいに脳と視覚の間に膜が張ってる。
でも、それでも相棒とずっと走っていられたのが嬉しい。
多分今までで一番距離を走ったであろう頃に、ようやく鳥取県米子市に入る。
もうきっと限界。
でも明日もまた走れるんだ。
延々と。
それが嬉しい。