慌ただしく九州を脱出した。


関門トンネルを抜けて、山口県を走る。


国道まで迷うかと思ったけど、全然間違わずに、海沿いの191号に出る。


街は混み合って思うように進めなかったけど、海に出る頃には車通りも少なくなっていた。


帰りは日本海側を通る。


遠回りになるけれど都会を避けたかった。



いつか見た、山口の海。


眩しい太陽の光を反射して、水平線が白い。


濃厚なコバルトブルー。


道はツギハギだらけで決して走りやすくは無いけれど、今から嫌というほどバイクで走れることが嬉しかった。



北九州おやじさんオススメスポットの海。


カスケード-Image631.jpg

沖縄の海の様に鮮やかでもあるけれど、内地の海の深くて重い青さも湛えている。


本当に美しかった。涙が出るほどに。


みんなに見せたい。


みんなに、今の私が感じているこの全てを見せたい。


日本海側を選んで正解だった。


太平洋側の都市部を選んでいたら、きっと先に進む為だけに走っていた。



カーブを描き、流れ、どんどんと表情を変える道に、私の感覚がどんどん研ぎ澄まされてきた。


剥き出しの粘膜のように。



私、今回は『旅行』だと思ってた。


でも、バイクで走り、人と出会う。これは『旅』。




時を忘れて走り続け、お尻の痛みで休憩をしていなかったと気付いた。


島根県に入っていた。


道の駅で休憩を取ると、日が沈む時間になっていた。


カスケード-Image634.jpg  カスケード-Image635.jpg

刻々と沈んでいく、大きなピンク色の夕日。


やっぱりこっち側を選んで良かった。


家に帰るまで、ずっと毎日夕日が見れる。


道の駅を出発して、走りながら海を見た。


カスケード-Image636.jpg

立ち止まらずにはいられない。


空気の色まで変えたように、視界が薄紫に染まる。


ありがとう。また明日。



日が落ちると、段々暗くなってくる。


薄暗くなった海沿いに漁港の明かりが浮かび上がってきた。


自然と共に懸命に生きる人の営みが見える漁港が好き。



真っ暗になるのは早かった。


今日は鳥取県までは入りたかったから、暗い道を走り続けた。


もったいないかとも思ったけれど、心配性の私は、とりあえず先に進みたかった。


ここは日本一周で通った道。


思い出す記憶。


切ない。



ずっと走っているけれどいつまでたっても鳥取に入らない。


半分朦朧としているのか、トリップしてるみたいに脳と視覚の間に膜が張ってる。


でも、それでも相棒とずっと走っていられたのが嬉しい。



多分今までで一番距離を走ったであろう頃に、ようやく鳥取県米子市に入る。


もうきっと限界。


でも明日もまた走れるんだ。


延々と。


それが嬉しい。