愛媛大学防災情報研究センター(松山市)は1月31日、能登半島地震で石川県に現地調査に赴いた同大准教授による報告会をオンラインで開いた。被災前後の現地写真を対比するなどして、地震の悲惨な実態と対応すべき課題を報告した。

 二神透准教授(61)と芝大輔・特定准教授(53)は1月10〜12日、輪島市の観光名所「輪島朝市」で起きた大規模火災の跡や、多くの建物倒壊や道路網寸断を引き起こした地盤液状化が起きた箇所、困難を抱えた避難所の様子などを視察した。

 二神准教授は地域防災計画が専門。1981年以前の旧耐震基準で建てられた木造住宅が軒並み倒壊した市街地や、山腹崩壊や液状化による道路のアスファルトの破損、雨漏りで避難所として使えなくなった学校体育館などを画像を示して報告した。

 愛媛県が2013年に発表した南海トラフ巨大地震想定の被害予測では、13市町で最大震度7の地震が起き、津波や建物倒壊、火災による死者は約1万6千人に上ると推計されている。愛媛県のハザードマップでは、液状化の危険度が高い地域が東予沿岸部などに広がり、急傾斜地や山腹崩壊危険地区を示す点は全県に分散していると強調。「初動が遅れると災害関連死が増える」と警告した。

 センターは地震などによる火災延焼のシミュレーションソフト(https://cdmir.jp/simulator/)をネットで配布しており、今回の震災の火災についてもデータを収集して検証する。

 芝特定准教授は、自然災害や少子高齢化などの課題に対応するため昨春発足した大学院地域レジリエンス学環に所属。松山市消防局などで防災に携わった経歴を持つ。

 能登半島地震について、インフラやライフラインの被害が深刻で復旧が遅れ、道路損壊や断水が引き起こした火災の延焼が拡大し、地域の高齢化で耐震住宅への建て替えが進まなかったことが被害を拡大した、といった特徴を挙げた。「家族を失った被災者である市職員が、避難所から通いながら職務を続けている事例もあった。支援者への支援が急務だ」と指摘した。

 愛媛大からは多くの教職員が現地に赴いており、今回は速報会との位置づけで、後日改めて報告会を実施するという。(戸田拓)





 災害が起きた時、自力で避難できない高齢者らをどう守るのか。あらかじめ支援する人や避難先を決めておく「個別避難計画」について、奈良県内の市町村で作成が遅れている実態が明らかになった。南海トラフ地震を含め、県内でも大きな地震は起きうる。高齢化が進む地域を襲った能登半島地震の状況も踏まえ、県は計画作りを急ぐよう自治体に呼びかけている。

 個別避難計画は、高齢者や障害者ら「避難行動要支援者」の逃げ遅れを防ぐため、1人ずつの避難先や支援者を事前に明記しておくもの。かかりつけの医療機関や配慮すべき事柄などを記載する場合もある。

 災害弱者に目を向けた自治体独自の取り組みが広がる中、2021年に災害対策基本法が改正され、計画の作成が市町村の努力義務となった。

 だが、内閣府・消防庁の調査(23年10月時点)では、奈良県内の全39市町村のうち、「全部策定済み」は4自治体にとどまる。「一部策定済み」は全体の38・5%(15自治体)で、全国平均の76・0%を大きく下回る。「未策定」は51・3%(20自治体)で、全国ワースト1位だった。

 能登半島地震を受け、山下真知事は1月17日の定例会見でこれらのデータを公表。作成を「早く進めていただく必要がある」と促した。

 なぜ、作成が進んでいないのか。

 朝日新聞の取材に対して、「未策定」の自治体からは「要支援者の対象を広げすぎていたため、新たな基準を設けて名簿を作成し直している段階」(香芝市)、「部署間での調整ができていない」(大和高田市)という回答があった。

 一方、橿原市は14年度から策定を始め、同意を得た約1千人の対象者すべての計画を作成した。計画をもとに災害時の対応を話し合う地域もあり、防災意識の向上につながっているとみる。ただ、中には支援者が決まらず空欄のものもあり、担当者は「計画の見直しを図り、行政としても有効活用できる仕組みを検討していきたい」と話す。

 自治会の協力を得ながら計画作りに取り組む、ある自治体の担当者は、「作成した計画を実際にどう活用できるのか明確ではない中で、作業負担や支援する側の責任は大きすぎるという不満が地域からあがっている」と実情を明かす。

 内閣府の防災担当者は「作成数を増やすことが目的では決してない。要支援者と地域が避難を自分事として考えてもらうツールとして役立ててほしい」と話している。(阪田隼人)

     ◇

 地震による大きな被害は近年発生していない奈良だが、揺れの大きい内陸型地震を引き起こす可能性のある八つの活断層の存在が指摘されている。

 中でも、大きな被害が想定されているのが、京都府南部から奈良市を通り桜井市付近まで南北35キロに延びる「奈良盆地東縁断層帯」だ。2004年に公表された県の調査では、最大震度7の大きな揺れで、死者約5100人、負傷者約1万9千人が想定されている。建物被害は全壊が約11万9千棟に及び、43万人を超える避難者が出る見込みだ。

 ほかにも、最大震度7の揺れを引き起こす活断層として、「中央構造線断層帯」や「生駒断層帯」があり、県はいずれも4千人超の死者を想定している。さらに、30年以内の発生確率が70〜80%とされる南海トラフ地震でも、県内全域で震度6級の揺れが想定されている。

 いずれも多くの建物が全壊する恐れがある。今回の能登半島地震でも、「家屋倒壊」による死亡が大半を占め、事前の耐震補強の重要性が改めて指摘されている。

 奈良県の推計(20年時点)では、県内の1割強にあたる住宅約7万戸が耐震基準を満たしていない。

 被災地の石川県穴水町へ派遣され、建物の応急危険度判定を担当した奈良県建築安全推進課の担当者は「同じ地域でも古い木造住宅と新しい建物で被害程度が全く違うことを目の当たりにした。県民のみなさまには、各市町村の補助制度を活用して住宅診断や耐震改修を進めてもらいたい」と呼びかけている。(阪田隼人)

■奈良県の市町村の個別避難計画策定状況

【全部策定済み】

橿原市、上牧町、黒滝村、上北山村

【一部策定済み】

奈良市、大和郡山市、天理市、五條市、生駒市、葛城市、宇陀市、斑鳩町、御杖村、王寺町、広陵町、吉野町、天川村、十津川村、東吉野村

【未策定】

大和高田市、桜井市、御所市、香芝市、山添村、平群町、三郷町、安堵町、川西町、三宅町、田原本町、曽爾村、高取町、明日香村、河合町、大淀町、下市町、野迫川村、下北山村、川上村

(内閣府・消防庁調査 2023年10月1日時点)

















































「自分のできることは輪島塗の復興…」壊滅的被害からの復興に向け取り組む若者たち 既に4000万円の支援金も集まる