今年のクマは消化に悪いという「生のお米」にまで手を出していますが、どうやら新しい味を次々と覚えているようです。それが「来年の脅威にもつながる」と専門家は指摘しています。一体、どういうことなのでしょうか。

■ツキノワグマの食生活は?

 クマの生態を研究する石川県立大学の大井徹特任教授によりますと、そもそもツキノワグマは雑食で何でも食べるそうです。消化器官は人間とほとんど同じで、人間が食べるものであれば、ツキノワグマも基本的に食べられると考えていいそうです。

 ただ、ツキノワグマは山の中で生活しているので、生活圏内で手に入るドングリが主食となっています。

 ところが、今年はツキノワグマの主食に大きな変化がありました。

■クマが“新たな味”を覚えた1年に

 今年はドングリが大凶作でした。そのため、クマとしては食べるものがないので人里に下りてきて、柿の実やトウモロコシ、米など今まで食べてこなかった新しいもの、農作物に手を出して、それが被害を受けているわけです。

 こうした農作物は人間の手によって品種改良されていて、栄養が豊富です。ですから、野生のクマにとっては“ごちそう”になります。

 学習能力が高いクマが“ごちそう”だと一度覚えてしまうと、それを食べようとして何度でも人里に姿を現す。つまり、今年は野生のクマにとって新しい“ごちそう”の味を覚えた1年になったと、大井特任教授は話します。

■専門家“来年以降もクマの恐怖が”…これからできることは

 大井特任教授は、こうなったことで来年以降にもクマの恐怖が積み残されることになると警鐘を鳴らします。

 クマは学習能力が高いため、来年の春に冬眠から目覚めても、今年覚えた“ごちそう”の味を覚えています。さらに食べている時に人間から攻撃を受けなかったクマは「人間はさほど怖くない」ということも学習しています。

 ですから、仮に来年はドングリが豊作だとしても、簡単に手に入る“ごちそう”つまり農作物を狙ってクマが人里に下りてくる可能性があるということです。

 冬眠時期まであと数週間となります。対策としては新たな味を覚えさせないことが大切です。生ごみなどクマが食べられそうなものを外に置かないといった対策をしていくことが、来年以降のクマ対策にもつながるということです。

(スーパーJチャンネル「newsのハテナ」2023年11月13日放送)




「朝一番でシャッターを開けたらクマがいた」 秋田の「マタギ」男性75歳が語る“今年の異常” 



 クマによる人身被害が過去最悪ペースになるなか、13日に番組が注目したのは目撃が相次いでいる「子グマの一人歩き」です。何が起きているのでしょうか。

■必死の脱出 クマの意外な行動

 岩手県紫波町の用水路に取り残されていた体長60センチほどの子グマ。川の水に濡れながらも流されないように草木がたまった場所になんとか、とどまっています。脱出は不可能かと思われましたが、用水路の穴を通ってクマが陸地の方に出てきました。周りを警戒しながらも、なんとか自力で脱出を果たし、子グマは林の中へと逃げていきました。しかし、こうした愛らしい姿が目撃される一方で、クマによる人身被害は180人と過去最悪です。

■柿の実狙う?秋田で相次ぐ被害

 秋田県では今年に入って68人目の被害がありました。13日午後1時すぎ、八郎潟町で柿の実を取っていた75歳の女性が体長1メートルほどのクマに襲われたと警察に通報がありました。女性はももなどを引っかかれましたが出血はなく、軽傷だとみられています。そんななか、クマに関する“新たな傾向”も…。

 爆竹を鳴らして追い払おうとしているのは、木の上で柿を食べる親子とみられる2頭のクマです。

■母グマどこへ?危険性は?

 クマは1月から2月の冬眠中に出産し、通常は1年半ほど親子で生活するといいます。しかし今年、目立つのは単独の子グマ。先ほどの用水路にいたクマも専門家によりますと、今年生まれた0歳の子グマだとみられます。

 石川県立大学 大井徹特任教授:「今年、生まれた子グマは母グマと一緒に行動しています。それが単独で行動しているのは何らかの理由ではぐれたか、母グマが駆除によって殺されたかのどちらかだと思う。子グマは力は弱いが予測不能な行動も」



 母グマの駆除によって増えている可能性がある単独の子グマ。予測不能な行動を取ること以外に思わぬ危険もあるといいます。

■専門家「親グマ攻撃おそれ」

 SNSなどを通してもよく見られる単独行動の子グマ。しかし、子グマと思い気を許すと思わぬ危険もあるといいます。

 石川県立大学 大井徹特任教授:「親子でいて、子グマだけが人の目に触れている場合もある。そういう時に近付くと親グマが自分の子グマを守ろうとして攻撃的になるので事故が起こる。子グマを見かけても近付かずに役場、警察に通報して下さい」

 さらに、人里で目撃された子グマのなかには成長した後も「人里はそれほど危険ではない」と考え、頻繁に出没するものも現れるかもしれないと警鐘を鳴らします。




 







季節が一気に進んでもこの野生動物の脅威は続くかもしれません。
きょう12日も各地で目撃されたクマです。
この冬は、冬眠時期でも眠らないクマの増加が懸念されています

■柿食べる2頭のクマ…用水路に子グマ

今朝、木の上で柿を食べていたのは、2頭のクマ。親子とみられます。
(警察)「上がっている人危ない!」
(動画を撮影した人)「野生のクマは初めてこんな感じで見ました。実際、近い方に降りて来たりもしたので、これは結構怖いなと思いました」
この女性が最初にクマを見掛けたのが、11日夕方。20時間以上、昇り降りを繰り返していたといいます。そして…。
その後も爆竹を何回も鳴らし続け、午後1時すぎ、クマの姿は見えなくなったそうです。
(動画を撮影した人)「職場のある地域で人身被害があったりしたので、まず会社を出たら車まで走って行くようになりましたね。実がなくなるまでは、また(クマが)来ると思うので気を付けたいと思います」
クマの目撃は、岩手でも…
(今井悠貴記者)「今、この用水路の草木がとどまっているような場所に子グマが一頭とどまっている状態が続いています」
岩手県・紫波町にある用水路で発見されたこちらの子グマ。実は、ここで発見される前、近くの住宅の敷地に侵入し、柿の実を食べるなどして1時間以上居座った後、姿が見えなくなっていました。
(今井悠貴記者)「今用水路の穴を通って、クマが陸地の方に出てきました」
この後、クマは林の中へ逃げて行ったということです。

■畑に潜む3頭のクマ…熱反応で空から監視

クマによる人身被害が180人と過去最悪の事態になっている中。各地で様々なクマ対策が行われています。
ドローンを使ったクマの捜索は現在、全国各地の自治体などに広まっています。ドローンが捉えた上空からの森の映像。一見、何もいない様に見えますが、赤外線カメラに切り替えると…体温に反応し、赤紫色に浮かび上がったクマの姿が確認できます。
こちらは今年8月、岩手県岩泉町でクマの調査の為ドローンを飛ばした時の映像。人の背丈以上のトウモロコシ畑の中に潜む3頭のクマ…さらにドローンで追尾していくと、人目に付きにくい川沿いの藪を移動する姿も確認できます。
さらに、山口県岩国市。こちらの協会では自動操縦で森林を巡回するシステムの運用を目指しています。周辺では例年に比べ、クマが多く目撃されています。
(山口県産業ドローン協会芝田康平さん)「この大きなレンズが可視光カメラで望遠レンズも付いています。こちらに赤外線カメラが付いています。」

手元の送信機にはリアルタイムの映像が確認できるモニターが付いています。住民が見守る中いよいよ探索開始です。
「離陸します」
今回はクマが目撃された周辺の山の一部を捜索します。早速、赤外線カメラ映像を見ると…
(芝田康平さん)「自動航行、順調に進んでいます。設定したルートでちゃんと飛んでくれています」
Q.何か居そうですか?
「今の所見えないですね」
最新ドローンでの捜索は搭載されているGPS装置を使い、座標をプログラミングすることで広大な地域を誤差数センチの間隔で探索できるといいます。人間が山に入り探索すると2日間はかかる広さを、およそ1時間で巡回出来るといいます。
(周東町下中曽根自治会世良輝久会長)「特に今は山の中に(人が)入ってないから山に入れない。現実的には。人では恐らく無理です。(ドローンは)これから有効になってくるでしょうね」
今回の飛行でクマを探知することはできませんでしたが、自動航行での運用は大きなメリットがあるといいます。
(山口県産業ドローン協会森重優太さん)「広範囲を短時間で捜索できますし、自動航行を行うことで準備の時間を削減出来ますので、人手と時間の削減ができるのかなと思います」

■“ツキノワグマ生息地の核心部”に学ぶ対策

秋のシーズンを迎え、多くの観光客が訪れる山間部では観光地全体で独自のクマ対策を行っている場所があります。長野県上高地。大自然の宝庫として国の文化財に指定され、年間120万人もの観光客が訪れる景勝地です。
(埼玉から来た観光客)「こんなすごい景色(埼玉では)見られないんで、やっぱり見応えありますね、すごくきれい」
ツキノワグマの生息地の核心部ともいわれる上高地。この自然豊かな観光地では3年前からクマによる被害を食い止める対策を強化しているといいます。目撃情報が入った際はクマ対策専門の人員を配置します。
(自然公園財団上高地支部香取草平主任)「これがシールドですね。親子クマであったりとか、何らか興奮状態にあるクマの場合は、(クマが)突進や威嚇などして上高地ではあまりないが、その可能性も考えられるということでこれ(シールド)は全体を守れますので」
こうした対策強化には3年前に起きたクマによる人身被害が教訓として活かされているといいます。
2020年8月9日未明、キャンプ場にクマが出没。テント内の食料を漁ろうとしたところ、テントに泊まっていた50代女性の足にクマの爪が刺さり、けがをする事故が発生。そのおよそ11時間後、人を襲ったクマの姿が防犯カメラに捉えられていました。ゴミ箱を漁るクマ…その数分後。建物から離れるクマの数メートル先から人の姿が…クマの存在に気付いていない様子で一歩間違えば、さらなる事故につながる可能性がありました。
(香取草平主任)「お客様に対する被害を防止しながら、クマを守っていく必要がある。非常に難しい場所。(私たちには)2つの使命がある。1つはもちろんクマの生活を変えない。2つ目は観光地としてクマと適切に共存して安全な観光地を目指す」
“クマの生息環境を維持しながら人的被害を未然に防ぐ”ことを目標に上高地では、人とクマの住むエリアを明確に区分けしています。
(環境省中部山岳国立公園管理事務所松野壮太管理官)「観光利用する人もいれば奥に行くにつれて登山利用の人もいる。そうした利用実態に合わせてゾーニング分け(区分け)をしています」
観光地全体を4つのエリアに分け対策。対応も厳密なマニュアルに従い管理され、目撃情報などは即座にネット上に共有されます。こちらのキャンプ場では…
(小梨平キャンプ場道鬼梨香支配人)「クマ対策として食糧庫、フードロッカーをこちらに置いてます。これを設置してからは全て食べ物飲み物も水以外のものをこちらにしまうように指導しています」
3年前の人身被害の影響もあり、徹底的にルール化したといいます。キャンプ場で一夜を過ごした人は…
(愛知県からのキャンプ客)「全然安心して泊まれる」
Q.クマ対策がとられていることは?
「すごくいいことだと思います」
さらに散策エリアにはクマ監視網が…全部で12台のセンサーカメラを設置し夜間などの監視も行っています。そして人の往来が最も多いホテルでも対策が―。
(五千尺ホテル上高地丸山政幸支配人)「クマ対策の一つとして過去は木で囲っただけのゴミステーションだったのですが、コンテナを入れて、夜間に関してはシャッターを閉めて完全にクマの侵入を防ぐという対策の一環です」
独自でコンテナを購入し対策しているホテル。こうした取り組みにより散策エリアでゴミを漁るクマは、2年前から現れなくなりました。クマ対策の要は訪れる人の意識だといいます
(自然公園財団上高地支部香取草平主任)「私たちが生態を深く知って、きちんと対策というのがどういうものなのかを1人1人がきちんと理解した上でここの観光地を楽しむ。私たちが深い理解と強い意識を持って自然に影響を与えないように行動していくということ」


■スタジオ解説“冬眠しないクマ”続出か2つの原因

(小木逸平アナウンサー)
クマと人間の共生関係に詳しい東北芸術工科大学・田口洋美名誉教授によると、“2つの原因”で冬眠しないクマが増える恐れがあるとのこと。
1.「凶作」→今年はクマの主なエサ・ブナの実などが少ない中、鹿などを食べ“肉の味を覚えたクマ”が一定数現れる。冬眠で穴に入っても体温が下がらず、寝つけずに外に出てしまう【穴持たず】と呼ばれるクマになる恐れがある。この「穴持たず」は“狂暴化”、
そのうえ眠く判断力が鈍った状態で人に襲い掛かかってしまう危険性があり特に警戒必要。
2.「暖冬」→多くのクマは空腹のまま無駄なエネルギーを消費しないよう早く冬眠に入るとみられるが、暖冬で穴の温度が高いと目覚めて外に出てきてしまう。

(渡辺瑠海アナウンサー)「暖冬と言われるこの冬もかなり心配になりますね…」
(小木逸平アナウンサー)
田口氏は、「この冬も同じように冬眠できないクマが増えた場合、冬山にエサが無いので普段は来ない人が住む場所にまで行動範囲を広げる恐れがあり「人間側も行動に注意」が必要」とのこと。

Q.太田さん、クマが冬眠しないと自治体も警戒が長く続くことになりますよね?
(共同通信社編集委員太田昌克氏)
「私の故郷の富山でもクマの被害が出ている。富山市のクマ対策の担当者に話を聞くと、『暖冬で雪が降らないなら(冬の間も)警戒を強めないといけない。とはいえすでに柿の木の伐採など打てる手は打っていて、妙策はない』クマで有名なカナディアンロッキーでは、ツナ缶にミートローフ缶、あらゆるゴミの臭いが残らないよう洗い、フタ付きのゴミ箱に捨てていた。冬も気を抜かずクマをおびき寄せないよう出来る対策をしっかりとっていきたい」

11月12日『サンデーステーション』より