クマを保護したり、時には駆除するか否かの判断を任されたりしてきた研究家がいる。ここ最近、クマを駆除した自治体への抗議殺到が問題化しているが、この研究家は、自身も自治体に勤務していた時代に数多くの抗議を受けてきたという。クマに襲われた被害者の家に「自業自得だ」などの残酷な電話があったともいい、抗議がエスカレートする状況に複雑な思いを語る。

 全国的にクマによる人身被害が多発している。先月、檻(おり)に入ったクマ3頭を駆除して抗議電話が殺到した秋田県だが、8日にも大仙市で男性がクマに襲われてケガをする被害が発生。県内では今年66人目のけが人で、11月に入って5人目と、被害が続いている。

「昔から、動物の駆除に対しては様々な抗議がありました。ただ、クマに関してはここ数年、抗議がエスカレートしていると感じています」

 そう話すのは50年以上、クマの生態を追い続けてきたNPO法人日本ツキノワグマ研究所の米田(まいた)一彦理事長(75)だ。

 米田さんは大学卒業後に秋田県庁に就職し、自然保護課に配属された。14年間、自然保護行政に携わるなかでクマとかかわりを持ち、1986年に退職後、フリーの研究者として活動を始めた。

 国内外でクマを研究し、環境省や中国地方の自治体からの委託を受け、山に入ってクマの生息状況を調査した。クマとの遭遇は数知れず、襲われて命の危険にさらされたことは何度もある。

 人里に現れたり、イノシシ用のわなにかかったりしたクマを山に返すか、駆除するかの判断を任されるときもあった。

 動物の駆除に対する自治体などへの抗議は今に始まったことではない。米田さんも県庁に勤務していた時に、「なぜ駆除するのか」「なぜ駆除しないのか」の双方で抗議を受けたといい、「君の名前を言え!」と言われたこともあるという。10月に秋田県にかかってきた抗議のなかにも「責任者の名前を言え!」というのがあった。

 米田さんは、「役所にはさまざまな意見が来るので、ある程度の抗議を受けるのは仕方がないかもしれません」としつつ、現状への懸念を口にする。

 「近年、クマが多く生息し、人身被害が発生している土地に生きる人々の現実と、動物愛護の思いを強く持つ人たちとの意識の乖離(かいり)が、非常に大きくなっていると感じます。例えば、私が講演で、人里にクマが来ないように『庭に柿の木がある人は、果実はもいでおくように』とアドバイスしたところ、『果実はクマに食べさせてあげたらいいだろう!』との抗議電話がきたこともありました」

 米田さんによると、駆除をしたハンターの家に抗議がきたケースや、さらには、山に入ってクマに襲われて死亡した人の家に、「自業自得だ」といった、駆除の原因を作ったのはお前だ、と決めつけんばかりの電話が続いた事例もあったという。このように個人を特定し、攻撃する風潮に米田さんは危機感を募らせる。

 「数が増えすぎて頭数調整をしなければならないなかで、肝心のハンターは減っています。山間部に生きる人たちには、山の恵みを受けて暮らしてきたという生活文化があり、山に入ることに罪はありません。にもかかわらず抗議が殺到してしまう現状はどうにかしていかなければならないですが、抗議をする側も、『自分は正しい』と思って電話をしているのでしょう。果たしてどのような解決策があるのか、簡単には思いつかないというのが本音です」

 秋田県は、ツキノワグマを国の「指定管理鳥獣」に指定するよう求める方針を固めた。

 環境省が「集中的で広域的な管理が必要」と認めた動物が対象で、現在は、イノシシと二ホンジカが指定されている。クマも指定されれば、捕獲する際に国から補助金が交付される。

 また、夜間に猟銃を使用することや、捕獲した個体を山中に放置することができるようになる。

 「国としてクマの問題をどう扱っていくのか。今後の判断を見守りたいと思っています」

 クマと人間との共生を考え続けてきた米田さんは、そう話した。

(AERA dot.編集部・國府田英之)




抗議電話相手に捕獲した熊をプレゼントでもしましょうか。


 


今度はクマが大阪府でも出没したという情報が。9日に注目するのはクマと柿です。クマが柿を食べる様子この秋、多く目にしますが専門家によりますと、実は「柿が大好き」というわけではないそうです。

■小学校で“クマの足跡”くっきり

 くっきりと残る大きな足跡。見つかった“場所”が問題です。大阪府の小学校内で子どもが見つけたものです。周辺では生々しい爪痕も残されています。喫茶店も閑古鳥が鳴く状況です。

 小学校付近の喫茶店員:「これくらいの時間から徐々に(客が)来るが、きょうはしんとしている。来て(クマに)襲われたら笑い事ではない」

 大阪府北東部に位置する茨木市。今月に入り、爪痕や足跡なども含めて目撃情報が相次いでいます。

 茨木市 農林課担当者:「例年は毎年1件か2件クマらしきものの通報があるが、異常な状況と認識している」

 西日本でも相次ぐクマの出没。もはや北海道や東北だけの話ではありません。

 東京農業大学 森林総合科学科 山崎晃司教授:「西日本も分布域拡大と個体数増加は東北と同様に起こっている。理由はもしかすると、東北とは違って食べ物だけではない」

 西日本で増加する理由。人とクマとの距離感の違いがあるというのです。

■人とクマの“距離感”に違いも

 東北や北海道で多くあったクマの目撃情報。今年は大阪や広島など、西日本でも相次いでいます。専門家は“地形上”の理由があると分析します。



 東京農業大学 森林総合科学科 山崎晃司教授:「西日本の方が山と人間の生活している空間がモザイク状に入り組んでいる。クマと人が会う可能性は東北と違った形で多いと思う」

 クマの目撃が相次ぐ茨木市。上空から見ると、森と住宅が入り組んでいる様子が分かります。

 もう一つの理由。東北とは違う“風習”をあげています。

 東京農業大学 森林総合科学科 山崎晃司教授:「東北はクマを撃つ伝統的な狩猟者集団がいる。マタギとか。西日本でもそういう技術はあったはずだが最近は途絶え始めている。クマの数に対してプレッシャーをかける機会が減っている」

■冬眠で「脂肪が欲しい」のに…

 人里への出没が相次ぐなか、クマがこぞって集まっているのが柿の木。岩手県内で撮影された映像。クマが登っていた柿の木にいくつもの実がなっています。さらに…。

 撮影者:「きょうのクマにやられた柿の木」

 宮城県や…。

 住民:「(Q.柿落ちてますね?)これ皆、食べた跡みたい。きれいに食べる」

 新潟県でも。秋田県内の放置された柿でドライフルーツなどを作る業者にはこんな依頼が…。

 放置柿でドライフルーツなど作る柿木崇誌さん:「(柿が)あるだけで(クマを)誘因するかもしれないから、(クマが)来なくても収穫して下さいと言われる。ほとんどの人が高齢者で、放置するというより収穫したくてもできない。(秋田県北部では)2、3軒に1軒は柿の木が生えている」

 今年は“柿のあるところにクマあり”といった様相ですが、実は冬眠前のこの時期、好んで柿を食べているというわけでは必ずしもないといいます。

 東京農業大学 森林総合科学科 山崎晃司教授:「(クマは)冬眠に向けて脂肪を増やしたい。食べ物に含まれる脂肪分や炭水化物のようなものがとても大事。柿はそこまで体脂肪を増やす部分で貢献しないかも。一番、脂肪分が多いのはブナの実」

 山に脂肪分が豊富な木の実が少ないため、人里にある柿を食べざるを得ない状況だといいます。より脂肪分のある餌(えさ)を求めて徘徊(はいかい)しているのでしょうか。クマは日本一大きいと言われる秋田県仙北市の名産も狙いました。

■クマ狙う“日本一”大きい名産栗

 黒い巨体がわなの近くで地面を探っています。仙北市で撮影された映像。日本一大きいと言われる「西明寺栗」の畑です。クマは赤ちゃんの握りこぶしほどの大きさもあるという栗を狙いました。収穫時期にもかかわらず半分ほどの栗が被害に遭ったということです。

 クマが冬眠に必要な栄養を接種できないとどうなるのでしょうか。専門家は…。

 東京農業大学 森林総合科学科 山崎晃司教授:「冬眠中は子どもを産むが、雌の体が持たないので出産を諦めるとか、来年冬眠から明けた時、痩せた状態になると思うので、また食べ物を探して歩き回るというのが4月くらい(早い時期)から起こる可能性もある」