北日本の猛暑は常態化し、冷夏の恐れは低い−。宮城県丸森町出身の三重大大学院生から、近年の猛暑を解明する修士論文を書いたので東北の皆さんに伝えたい、と「読者とともに 特別報道室」にメールが届いた。上空が北、地上が南に傾いた構造の「南北傾斜高気圧」という新概念に加え、2010年以降に北半球規模で「レジームシフト」が起きたと分析している。

[レジームシフト]気候が急激に変化することを意味し「気候ジャンプ」とも呼ばれる。立花教授によると過去50年間、日本では2回発生した。1回目は寒冷期だった1978〜88年、2回目は温暖化が進んだ89〜2009年。10年以降のレジームシフトは、温暖化の対策を取らなければ少なくとも10年間は続くという。

■北半球規模の気候変動続く「東北の農業、暑さ対策にシフトを」

 論文をまとめたのは三重大大学院生物資源学研究科博士前期課程2年の天野未空(みく)さん(24)。仙台三桜高から三重大に進み、大学院では共著者となった立花義裕教授(気象学)の指導で異常気象を研究してきた。
 天野さんは北海道や東北6県、新潟県で夏の平均気温が10年以降、平年より低い年がない事実に着目。地上近くに中心を持つ太平洋高気圧、オホーツク海付近の上空にある高気圧が毎年のように現れて発達する現象を突き止め、「南北傾斜高気圧」と命名した。

 南北傾斜高気圧で北日本の猛暑が続くメカニズムはイメージ図の通り。(1)地球温暖化による暖かい大陸と冷たい海との温度差が拡大(2)通常は北海道上空を流れる偏西風が大陸からの暖気を避けるように北へ蛇行−といった要因が絡み合い、上空の高気圧が地上の太平洋高気圧と円柱のように結合し、停滞しながら勢力を保つと説明する。

 上空の高気圧からの下降気流が「断熱昇温」と呼ばれる効果をもたらし、気温上昇の一因となっている。10年以降、北日本では南北傾斜高気圧が今年を含めて10回確認されたという。
 天野さんらは1958〜22年の世界気象機関(WMO)の気温データを解析し、10年以降の北半球規模のレジームシフトを指摘。「この気候変動が続く限り北日本で災害級の冷夏が発生する可能性は低く、毎年のように猛暑が訪れると予想される」と結論付けた。
 天野さんの実家は祖父の代まで兼業の稲作農家。小学校の授業で、大好きなササニシキが93年の大冷害以降、作付面積が激減した歴史を知った。地球温暖化が進む状況でも冷夏は起きるのか疑問に思い、研究を始めた。
 天野さんは「東北を中心に日本全体で農業分野は暑さ対策にシフトすべきだ。これまでの気候では育てられなかった作物の栽培にチャレンジしてほしい」と提案する。立花教授は、冷たく湿った北東の風「やませ」が当分吹かなくなると予測し「気候変動により、四季が春と秋が短い『二季』化する状態が普通になるだろう」と警鐘を鳴らす。
 論文は8月31日、米国の気象学会の雑誌にオンライン掲載された。来春、東京都内のIT企業に就職する予定の天野さんは「今後も気象や農業に貢献できる人材になりたい」と話す。
(鶴巻幸宏)