特殊詐欺グループの一員として高齢女性から現金をだまし取ったとして、警視庁が静岡県内に住む高校2年の少年(16)を詐欺の疑いで逮捕したことがわかった。少年は容疑を認め、「闇バイトの怖い人に家族構成などの個人情報を握られていて命令された」と話しているという。

 三鷹署によると、少年は1月19日午後、東京都内の80代女性から現金150万円をだまし取った疑いがある。事前に別の人物が女性の息子をかたって電話をかけ、「仕事でミスをした。会社に迷惑がかかるから金を貸してほしい」「上司の息子が取りにいく」など伝えていた。

 少年は調べに対し、親に借りたバイクの購入代金を返そうと考えてSNSで闇バイトを見つけて応募した、と供述。昨年12月以降、今回の事件を含めて9回にわたり同様に現金を受け取る役割を担い、報酬は1回あたり1万5千円だったという。(比嘉展玖)



 

 特殊詐欺事件の容疑者として映し出されたテレビニュースを毎朝見返すのが日課だ。警察官に囲まれながら、うつろな表情で歩く自分自身の姿――。思わず目を背けたくなるが、映像をじっと見つめ「もう二度と犯罪には手を染めない」と言い聞かせる。全国で相次ぐ広域強盗事件のニュースを耳にするたびに想像する。「あの日逮捕されていなかったら、もっとひどいことに関わっていたかもしれない」

 関東地方に住む20代の男性は昨年、仲間と共謀して高齢者からキャッシュカードをだまし取ったとする窃盗容疑で逮捕され、懲役3年、執行猶予5年の判決を受けた。一連の強盗事件で逮捕された実行役らと同じく、きっかけは闇バイトだった。

 男性は、難病を患い介護が必要な50代の母と2人暮らし。物流倉庫で派遣社員として週6日働いたが、月収は手取り15万円程度に過ぎない。生活費や介護費をまかなうには到底足りなかった。

 昨夏のある日、ツイッター上のある投稿が目に留まる。「債権回収役を見張る仕事で高収入。犯罪性はありません」。すぐにダイレクトメッセージで投稿者に連絡を取った。秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」でのやりとりに移行し、翌日、東京都内の喫茶店に呼び出された。

 指定された喫茶店に出向くと、「店の奥にいる男に身分証を預けて」とテレグラムで指示された。店にいた男性は「大金を持ち逃げされると困るので個人情報を記録する」と説明し、運転免許証のほか、家族や友人の連絡先までスマートフォンで撮影した。

 そのまま喫茶店に一人残されて待機していたところ、テレグラムが鳴った。指示された通り、都内の住所に向かい、そこにある住宅に入っていくスーツ姿の男性を動画に撮って送った。

 男性の仕事というのは、キャッシュカードや現金をだまし取る「受け子」の見張り役だった。

 報酬は詐取金の3%。言われるがままに動き、報酬は1カ月で約30万円に上った。受け子の監視役以外にも、駅のロッカーから詐取金を回収する役などもこなした。

 犯罪だと分かっていた。見張っていた受け子が警察官に身柄を取り押さえられるのを目の前で見たこともある。「今すぐやめた方がいい」と思ったが金銭欲には勝てなかった。

 いつしか罪の意識は消え、「自分と母さえ良ければ、被害者なんてどうでもよかった」。

 そんな生活は長くは続かなかった。闇バイトを始めて2カ月ほど過ぎたある日の朝、自宅のインターホンが鳴った。玄関を開けると、警視庁の捜査員が逮捕状を読み上げ、乗せられた車内で手錠をはめられた。

 「私のせいで犯罪者になってしまった」。母は泣いた。母は病気の体をおして親族に頭を下げ、示談金をかき集めた。そのおかげで被害者からは減軽を求める嘆願書が出た。かつての勤務先の社長も情状証人として出廷し「うちで面倒見る」と訴えてくれた。その結果、執行猶予付き判決となった。

 「自分にも支えてくれる人がいた。つらいときはつらいと、早く言えたらよかった」。男性は後悔を募らせる。少しでも帰りが遅くなると「また闇バイトをやっているんじゃないか」と不安に襲われる母を見て、自分の犯した罪の重さを痛感する。

 「昨日までまっとうに生きていた人間を、すぐさま犯罪者に変えてしまうのが闇バイト。この後悔を決して忘れたくない」

 男性は今日も、犯罪者として取り上げられた自分の姿をにらみつけるように凝視する。【木原真希】





■特殊詐欺に遭わないために

◆面識のない人からの電話でお金の話が出たら、すぐ電話を切って家族や警察に相談する

◆警察や役所、金融機関、百貨店を名乗る電話はいったん切り、それぞれの代表番号に電話して事実関係を確認する

◆電子マネーで支払いを求める身に覚えのない請求には決して応じず、家族や警察に相談する

◆自動通話録音機や迷惑電話防止機能付きの機器、留守番電話の機能を活用し、不審な電話に出たり折り返したりしない

◆ATMで還付金を受け取れることはないと知っておく

◆別居の子や孫と日頃から連絡を取っておく

(県警などへの取材による)




 

 札幌市内で今月に入り、住民に在宅を確認するような不審電話が、少なくとも170件寄せられている。中央区宮の森や豊平区福住、手稲区内が多く、北海道警は、犯罪グループが窃盗や強盗に入る前の下調べをした可能性があるとみて、警戒を呼びかけている。

 「これから行く」。11日午後2時5分頃、手稲区の80歳代の男性宅に、若い男の声で電話があった。男性は、最近市内で不審電話が相次いでいると聞いていたため、受話器の横に、不審な電話を受けた場合、警察に通報する旨を書いたメモを置いていた。

 話の内容から、すぐに不審電話と気づいた男性は、相手の電話番号などを問い詰めたところ、通話は突然切れたという。取材に応じた男性は「ニュースをチェックし、物騒なことがあった時の対応を確認することは重要だ」と振り返った。

 道警によると、こうした電話は、こちらから身元を尋ねると、通話を一方的に切ってくるケースが多い。窃盗や強盗被害につながりかねないほか、特殊詐欺の予兆電話の可能性もあるという。

 手稲署の小畑貴弘刑生官は「電話機の着信番号表示や留守電を活用し、相手を確認するようにしてほしい。見知らぬ番号からの電話には出ないことが対策になる」と呼びかける。

 近年国内では、犯罪グループが事前に「アポ電」と呼ばれる電話をかけ、資産のある家庭を調べてリスト化している疑いがあるほか、SNSで高額報酬をうたって犯罪への協力を誘う「闇バイト」に絡む強盗事件が発生している。

 道警は2020年6月下旬から、ツイッターで闇バイトを募集しているとみられる投稿に対し、警告文を送信してきた。送信件数は20年に225件、21年に399件、22年に191件に上っている。