全国の警察が令和4年に認知した刑法犯は60万1389件(暫定値)で、20年ぶりに増加した。警察庁は新型コロナウイルス対策の行動制限が緩和され、人流が復活したことに伴い街頭犯罪が増えたと分析する。「治安のバロメーター」ともいわれる刑法犯認知件数の増加は、国民の不安に直結する。警察は関係機関と連携し、アフターコロナを見据えた対策を強化すべきだ。

特に全国的に増加が顕著となった自転車盗や特殊詐欺被害への対応は、喫緊の課題である。

大阪府警のある捜査幹部は「飲酒する機会が増え、酔った勢いで自転車を盗むケースが多いのでは。酒がらみのトラブルが増えている」と話す。防犯カメラの活用や地域での見守りなど、ハードソフト両面で街頭犯罪をさせない「目」を増やすことが肝要になる。

悩ましいのは高齢者を狙う特殊詐欺だ。全国の警察での認知件数は1万7520件で前年比2割増に、被害総額も8年ぶりに増えて約361億円に上った。犯行拠点を海外に設けて捜査の網をかいくぐるケースが多く、府警捜査幹部は「犯行グループの絶対数が増え、分業化と匿名化が進んでいる」とする。

こうした詐欺グループは近年、ターゲットとする人の情報を共有し、交流サイト(SNS)の「闇バイト」で実行犯を募集。より粗暴な強盗に手法を変えるケースも指摘されている。実際、関東を中心に各地で相次ぐ広域強盗事件の犯行グループは、特殊詐欺から強盗へと犯行形態を変えた。事件では死亡者も出ており、国民の「体感治安」の悪化にダイレクトにつながっていると言えるだろう。

警察庁が令和4年10月、15歳以上の男女5千人に実施したアンケートでは、この10年間で「体感治安」が悪化したと感じると答えた人は67・1%に上った。このうち、62・4%が「特殊詐欺事件を思い浮かべた」と回答。これは、無差別殺傷事件(63・5%)を想起した人に次いで多い結果となった。

詐欺グループは電話をかける「かけ子」や現金を受け取る「受け子」など役割分担し、摘発されるのは末端が大半なのが現状だ。未然防止のための啓発活動など被害者を生み出さない対策はもちろん、グループ首謀者の摘発に向け、例えば、仮装身分捜査といった新たな捜査手法導入に向けた議論を本格化する必要があるのではないだろうか。(石橋明日佳)