書店には「抗がん剤は効かない」という内容の本が多く並び、高額な免疫療法を勧めるサイトも無数にある。そんななか、専門医たちが声を上げた。がん治療の現場で何が起きているのか。

◆医学的根拠がまったくない免疫療法が蔓延するワケ

2月に歌手の西郷輝彦さんが前立腺がんで亡くなったことは記憶に新しい。さらにその直後、東京五輪バレーボール日本代表の藤井直伸さんが胃がんのステージ4であることを公表。クラウドファンディングで治療費を募ったことで注目を浴びた。

寄付を呼びかけるメッセージには、「我々の想像を遥かに超えるような金額」である保険適用外の治療を受ける可能性が記されており、がん治療にかかる費用の大きさに驚いた方もいるのではないだろうか。

日本では毎年、100万人以上が新たにがんに罹患し、約38万人が命を落としている。高齢化に伴い罹患者数は増えているものの、医療の進歩で死亡率は低下している。こうしたなか、有志の医師が1月に立ち上げたプロジェクトが話題を呼んでいる。その名も「詐欺医療から人々を守るプロジェクト(サギプロ)」だ。代表の放射線科専門医・上松正和氏は言う。

「医学的な根拠を持たない治療法を提供しているクリニックや病院は以前からありました。ただ、主に末期がんの方を対象としているという認識でした。もちろん、それも患者さんの人生を毀損するものですが、私が自ら潜入調査した結果、治療すれば治る段階でも行われていました。そうし医療は看過できないと、正しい情報を提供する目的で立ち上げ、現在、約30人のメンバーが集まっています」

◆小林麻耶の発言で物議

サギプロを立ち上げるきっかけとなった患者は、食事とサプリメントで治療するクリニックにかかっていた。そのため、悪化した状態で上松氏の元を訪れたという。もし、初期段階で標準治療を受けていれば、悪化を免れた可能性は大きい。

なお、こうした詐欺的な医療を行う場所は現在、300以上あるともいわれている。また、つい先日、乳がんで'17年に亡くなった小林麻央さんの実姉であるフリーアナウンサーの小林麻耶は、夫の國光氏のYouTubeチャンネルに出演し「麻央は標準治療を受けたがっていたが、海老蔵が信じていた詐欺医療の気功師のせいで、標準治療を受けられなかった」という主旨の発言をして物議を醸した。

◆「副作用がない」「どんながんにも効果がある」

がんの詐欺的医療行為には、食事療法や分子栄養学、民間療法などさまざまあるが、現在大きな問題となりつつあるのが、免疫療法だ。

治療の主な流れは、患者の切り取ったがん細胞や、血液から取った細胞から、がん細胞を攻撃する免疫細胞のみを培養するなどして、再度体内に戻すというもの。

樹状細胞ワクチン療法、エフェクターT細胞療法、がんペプチドワクチンなどの名称で行われているが、いずれも「副作用がない」「どんながんにも効果がある」という触れ込みだ。費用は数百万円から時に数千万円かかるケースも。

「’14年に世界初の免疫治療薬として承認されたオプジーボと混同されがちですが、詐欺的医療の免疫治療は自由診療であり、まったくの別物。オプジーボが注目されたことで免疫療法の信頼性が増していったのです」(上松氏)

◆なぜこのような医療が蔓延している?

患者を死に追いやるような医師がいるのだとすれば悪質だが、がんを巡っては、なぜこのような医療が蔓延しているのだろうか。

「一つは営利目的。もう一つは医師の能力不足です。患者にとって最良の医療を提供するためには、医師も勉強を続けなければなりません。思い込みだけで診療できる詐欺的医療は、医師としての能力が低くてもできます。医師免許さえあれば高いお金がもらえるので参入しやすい」(同)

実際、詐欺的医療を行っている大阪のクリニックは「週5日勤務で残業はほとんどなし。年収1200万円保証。2年目以降は大幅に増収」と謳っており、がん治療が未経験でも構わないことをにおわせる医師の募集をしていた。都内の医療関係者は証言する。

「私が知る免疫療法のクリニックでは、治療費300万円のうち、60万円がワクチン会社に、残り240万円が医師の取り分となっていました。医師は最初に面談を行うのみで、採血や培養した細胞の点滴は看護師がやるんです。クリニックからすれば医師が動くことなく、大金を得られるんです」

◆息子のがん治療のため600万円払ったが

では、がんの詐欺的医療の現場では実際に何が行われているのか。現在、医師に対して支払い金額返還を求める民事訴訟を起こしている被害者・大西章哉さんは言う。

「息子が肺がんになり、DCハイブリッド療法という免疫療法を2クール受けました。毛髪診断を行ったところ効果があると言われ、藁をもつかむ思いでした」

同療法は、血液がんを除く全てのがんに効果がある最先端の医療だと喧伝されている。だが、治療効果や安全性が科学的に証明されていないため、自由診療で行われている。国で認められている先進医療の枠組みにも入っていない。

「1クール約295万円で計600万円近く支払いました。また、どうにか息子を救いたいと必死なあまり、担当医から勧められるまま70万円もする怪しいAI搭載デバイスも購入してしまった。これはネットワークビジネスでした」

大西さんの思いも虚しく、ご子息はがんの告知から約1年3か月後に亡くなった。大西さんは騙されたことを死後、雑誌で知った。

大西さんの裁判で、DCハイブリッド療法は効果が実証されていないという意見書を書いた腫瘍内科医の勝俣範之氏は言う。

「詐欺的ながん治療は、患者が騙されているのもわからず死に至ってしまうと、被害を訴えることもできない。つまり、問題が浮上してこないところが問題なのです」

◆詐欺的医療行為を行うクリニックを見分ける方法は

だが、状況は変わりつつある。昨年11月、がんの免疫療法を自費で受けた患者の遺族が、治療した病院とワクチンを供給した会社を相手取り損害賠償を求めていた訴訟で、遺族側が勝訴したのだ。こうしたケースは異例だという。

これまで詐欺的な医療に対しては「一部の大学病院やリタイアした教授が加担していることもあり、自浄作用が働かなかった」(勝俣氏)と言う。実際、金沢大学附属病院の敷地内にある「金沢先進医学センター」が、保険適用外の免疫療法を提供していることが問題視され、厚生労働省は3月に実態調査に乗り出す考えを示している。

詐欺的医療行為を行うクリニックは「自由診療を行っている」「最先端を謳っている」などの共通項がある。とはいえ、素人には見分けるのが難しいのも事実だ。

「がん治療なら、やはり国立がん研究センターは一流の治療を行っています。そこでセカンドオピニオンをとり、最良の治療を知ることで、そこからどれだけかけ離れているかを知ることができますよ。言われたままの治療を受けるのではなく、一度その分野のプロフェッショナルに相談してみる姿勢を持つといいでしょう」(上松氏)

正確な情報を手に入れ、大切なお金と健康、そして命を奪われないようにしたいものだ。

◆保険の営業担当者が詐欺医療に勧誘!?

昨年12月にステージ3の大腸がんが発覚したSさん(47歳)。医療保険の手続きをするため、担当者に連絡をしたところ、標準治療を否定するメッセージがLINEで送られてきたという。

「生保の営業担当者が『信じられないかもしれませんが、抗がん剤の効果はありません。転移する可能性が高くなる』と言うんです」

その後も「私の知人は皆、抗がん剤をやめました。酵素、高濃度ビタミンC、ファスティングなどいろんな治療法がある。紹介します」と怪しい治療法を勧めるメッセージが次々送られてきたという。

「その担当者は、副業で健康食品のネットワークビジネスを行っていることが後でわかったんです。誘いに乗っていたら、きっと今頃、いろんなものを買わされていたんでしょうね……」

ネット上では、詐欺的医療を行うクリニックがSEO対策に多額の資金を投入しているが、リアルな人間関係においても、さまざまな罠が張り巡らされている。

【上松正和氏】
放射線治療専門医。九州大卒業後、国立がん研究センター中央病院などを経て東京大学放射線科助教に。「YouTubeクリニック」にて正しい医療情報を発信中

【勝俣範之氏】
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授。『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』『「抗がん剤は効かない」の罪』など、著書多数

取材・文・撮影/中山美里 写真提供/上松正和氏 写真/Shutterstock.com

【中山美里】
フリーライター。性風俗、女性問題、金融犯罪などを中心に執筆。未婚で1児を出産後、結婚。3児の母。愛人に走る女性をルポした『副業愛人』など著書多数。女性のお金や生活事情に関するルポ、詐欺事件を多く扱う。性とお金に対する欲望と向き合う人間をフィールドワークし、取材執筆を続けている。日本プロダクション協会の監事も勤めている



★小林麻央さんの真相は別として、こういう詐欺的医療する悪徳商法の医者がいることは真実である。
まず標準医療とはなにかと言うこと。
免疫療法が標準医療より上回っているようなことを話す医師がいるのも事実です。






 






毎日新聞

 ちかんされていませんか?――。警視庁は8日、スマートフォンの画面にこんな文言が大きく表示される新機能を、同庁の防犯アプリ「Digi Police(デジ ポリス)」に追加したと発表した。電車内で痴漢被害に気付いた人が画面を被害者に見せることで、安心感を与えたり、助けたりしやすくするのが狙い。【高井瞳】

 アプリは2016年に開発され、無料で利用できる。今年3月末までに約47万回ダウンロードされたという。

 アプリ内の「痴漢撃退」マークを押すと、これまでは痴漢の被害者が自ら声を出さなくても助けを求められるように「痴漢です 助けてください」と表示され、画面をもう一度タッチすると、「やめてください」と自動で音声が出る機能があった。さらに、周囲の人も協力しやすくするために新たな文言の表示機能を追加した。

 新機能は、都内の高校生や大学生らによる防犯ボランティア団体「ピーポーズ」の提案。メンバーからは「痴漢に遭った時は、混乱してアプリを起動して助けを求めるのは難しいが、声を掛けてもらえれば応じやすい」「電車内で声を出すのはハードルが高く、痴漢を目撃してもどうしていいか分からない」という意見が出たという。

 8日は新宿区のJR四ツ谷駅の近くで、警視庁の警察官ら約15人がアプリの新機能を説明するチラシ約500枚を通行人に配った。生活安全総務課の渡辺幸次課長は「被害に遭った人は、自分一人が我慢すればいいと考えてしまうこともある。被害者に一人ではないと知らせるためにもアプリを活用してほしい」と呼び掛けた。