超加工食品 脳の快感回路に作用する危険性を、欧米科学者が警告 ニューズウィーク日本版 

「不自然」な食品が大手食品メーカーに莫大な利益をもたらす一方で、肥満と生活習慣病を激増させる元凶になっている

【アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)】

ケビン・ホールは数年前、ある説の間違いを証明しようと思い立った。


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それは、アメリカ人がますます太って不健康になっているのは、食品メーカーが売り上げアップのために手の込んだ製法で食品を加工するせいだという説だ。

いや、そんなことはないとホールは考えた。むしろ問題はアメリカ人が脂肪や砂糖を取りすぎて、摂取カロリーをオーバーしていることだろう。手の込んだ加工が肥満を招くなんて、そんなばかな......。

米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所の上級研究員であるホールは、自身の仮説を実証するために対照実験を行うことにした。

1人5000ドルの謝礼で被験者を20人募り、メリーランド州ベセスダにあるNIHの施設に1カ月滞在してもらう。被験者を2群に分け、一方には特殊な製法による加工をしていない自然な食品を、もう一方には太りすぎのアメリカ人がよく食べる加工食品を提供する。

一定期間に提供する食事の総カロリーと砂糖や脂肪の量は2群とも同じに設定したが、食べる量は好きにしていいと被験者に伝えた。

実験の結果、ホールは自分の間違いを認める羽目になった。加工食品を食べたグループは、もう一方のグループに比べて平均して1日に500キロカロリー多く摂取し、1週間に約0.45キロ体重が増えたのだ。

しかも、このグループも自然な食事に切り替えると、増えた分の体重を落とせた。つまり、食品メーカーがどんなマジックを使っているにせよ、加工食品は人を太らせるということだ。

この実験結果とその後に発表された他のデータを見て、公衆衛生や栄養学の専門家らが規制当局に対策を求めるようになった。

砂糖などの取りすぎは健康に害を及ぼすと警告するなど、ちょうど1990年代にたばこ会社のマーケティングを規制したような措置が必要だというのだ。


肥満大国アメリカを生んだ罪

「食の危機」とも言うべき今のアメリカの加工食品の消費状況は、半世紀以上も前、規制当局が大手たばこ会社に歯止めをかける前の喫煙状況に気味が悪いほど似ている。

ただし今回、人体に有害で依存症を引き起こしかねない製品を売り込んでいるのは大手食品メーカーだ。

問題は、従来のようにただ長持ちさせるためだけでなく、風味や見栄えの良さや食感などを追求して加工を施した多種多様な食品が爆発的に増えていること。こうした食品は、それを構成する化学物質のレベルまでいったん分解して、化学物質に手を加えてから、再び合成するという工程を経ている。

自然界には存在しない、いわばフランケンシュタインのような食品だ。従来の意味での加工とは処理のレベルが違うため、栄養科学は新しい呼び方を考え出した。「超加工食品」である。

多くの超加工食品は私たちの脳の「弱み」に付け込むように作られている。具体的には、快感を処理する回路に働き掛けるのだ。

麻薬やニコチンのように、多くの人がこうした食品に病みつきになるのはそのためだと、一部の専門家はみている。

アメリカ人がポテトチップスなどの加工食品を日常的に食べ始めたのは80年代からだが、これほどバラエティーに富んだ加工食品があふれるようになったのは、ここ数年のことだ。

ある調査によると、平均的なアメリカ人の摂取カロリーに占める加工食品の割合は2001~2002年には54%だったが、2017~2018年には57%と、じわじわ増えている。

「砂糖と脂肪を抽出、精製、加工して、濃度や純度を高める技術は非常に進歩していて、製造コストも下がっている」と、食物依存症を研究するミシガン大学の心理学者アシュレー・ギアハートは言う。

「(食品メーカーは)それらの成分を入れて、今まで私たちの脳が進化の過程で味わったものより、はるかに強烈な快感をもたらす食品を作っている」

こうした食品が人々の健康に与える影響は見過ごせない。

今ではアメリカの成人の半数が糖尿病か糖尿病予備群だ。成人の4人に3人は太りすぎで、成人の42%に当たる約1億人は米疾病対策センター(CDC)の基準で肥満に分類される。2~5歳の子供の10人に1人は既に肥満になっており、10代ではそれが5人に1人の割合になる。

新型コロナウイルス感染症では、肥満のアメリカ人は他のリスク要因がなくても入院率が3倍に上ったと推定されている。心臓病など食生活と関連する他の基礎疾患があれば、肥満の人の入院率は6倍、死亡率は12倍にも上る。

つまり、私たちの食べている物が私たちを死に追いやっているのだ。

いま必要なのは加工食品が健康に及ぼす影響を精査し、国家的な健康危機を招いた大手食品メーカーのマーケティング手法を人々に知らせること。

今はまだ食品業界の強力なロビー活動に対抗し得る勢力は米議会には育っていない。それでも何らかの規制を求める声は高まりつつある。

「特にここ5年ほど、超加工食品の取りすぎは肥満、糖尿病、心臓病、鬱病、癌、腎臓・肝臓疾患のリスクを高めることを示す論文が非常に増えている」と、ニューヨーク大学のマリオン・ネスル名誉教授(栄養学・食品研究・公衆衛生)は言う。


「食品ではなく、化学製品」

食品加工の歴史は、人類が火を発見し動物の肉を焼いて食べるようになった遠い過去にさかのぼる。

古代メソポタミアとエジプトでは燻製、塩漬け、乾燥といった方法で食物が保存されていた。19世紀に低温殺菌と缶詰の製法が開発され、食物を長期保存し輸送する能力は飛躍的に高まった。

私たちがいま知っているような加工食品が誕生したのは20世紀前半。ジャガイモのでんぷんをつなぎにして、豚肉、ハム、砂糖、水、亜硝酸ナトリウムで柔らかい塊を作り、四角い缶に詰めた「スパム」が開発されたときだ。

以後、アメリカの中間層の拡大に伴い、手軽で長持ちする食品の需要が急増。食品業界はその利益で研究開発を進め、噴霧乾燥や凍結乾燥などの処理技術を編み出した。

ついには2年間保存可能なまずまずおいしいカップケーキが製品化され、2000年代初めにはアメリカ人の摂取カロリーの半分以上を加工食品が占めるに至った。

栄養学者がこの流行を表す用語を発明したのは2009年。この年、サンパウロ大学(ブラジル)のカルロス・モンテイロ教授が「NOVA食品分類システム」を発表した。これは栄養素ではなく、物理的・生物学的・化学的加工処理の程度と目的によって食品を分ける新しい分類法だった。

モンテイロは「超加工」という用語を発案し、次のように定義した。

「食品から抽出した物質(油脂、糖、でんぷん、タンパク質)、食品成分由来の物質(硬化油、加工でんぷん)、有機物の原材料を化学的に合成した物質(化学調味料、着色料、食品添加物など)によって、全体または大半が作られた工業化学製品」

要するに、超加工食品とは自然界に存在する食品から糖、塩、脂肪、でんぷんを抽出し、人工着色料、香料、安定剤などを混ぜ合わせたフランケンシュタイン的人工物だ。

ソフトドリンク、ホットドッグ、パッケージ製品のクッキー、塩味のスナック、冷凍食品、缶詰などが、このカテゴリーに入る。

「こういうものは食品ではない」と、モンテイロは言う。「化学製品だ。食品に属さない、属すべきでない化合物を含んでいる」

多くの研究者は、範囲が広すぎるとしてモンテイロの分類法に反対している。

実際、「超加工食品」のカテゴリーには実にさまざまな栄養価の多種多様な製品が含まれる。カップケーキやコーンチップ、ダイエットソーダと、本物の鶏の胸肉にブドウ糖、砂糖、イエローコーン粉などを加えたものや、本物の牛肉と豆、つぶしたトマトに大豆粉、着色料を加えた製品など、タンパク質を多く含む食品が一緒くたに同居している。

しかし、モンテイロが食品の加工レベルを示す新しいカテゴリーを定義したことで、公衆衛生や疫学の専門家は食品加工のメカニズムや健康問題との関連を議論するための枠組みを手に入れた。

超加工食品がどのように肥満を招くのか、何千もの化学物質や添加物、栄養素のどれが健康を悪化させるのか、科学者たちはまだ解明できていない。

だが、食品メーカーを動かした市場の力は明らかだ。

肥満と代謝性疾患が急増し始めた1980~2000年、平均的なアメリカ人が摂取可能なカロリー量は1日約3200キロカロリーから4000キロカロリーに増加。その結果、消費者の関心と胃袋をめぐる業者間の競争が一気に激化した。


「至福ポイント」を徹底活用

一方、80年代には「もの言う株主」が食品会社への圧力を強め、株価を上げるため四半期ごとの収益を伸ばすよう要求した。

こうして食品業界では、製品開発とマーケティングの「軍拡競争」が繰り広げられた。

「食品を売って利益を得たいなら、消費者に他社ではなく自社の製品を買わせるか、消費者全体の食べる量を増やすしかない」と、ニューヨーク大学のネスルは指摘する。

自社製品をもっと売るために、食品会社は書店や衣料品店、ドラッグストア、ガソリンスタンドにも商品を置いた。シリアルを多く売るために1粒のサイズを大きくし、より多くの漫画キャラクターを登場させた。

企業に雇われた多数の科学者は、もっと多くの食品を売るための独創的なマーケティング手法と科学的イノベーションを考案した。

ジャーナリストのマイケル・モスは、2013年に出版した『フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠』(邦訳・日経BP社)の1章を割いて、ハワード・モスコウィッツを紹介している。

消費者が最も強い欲求を感じるように食品を「最適化」するために、高等数学とコンピューター科学を駆使して先駆的研究を行った食品業界のスターだ。

モスコウィッツは長年、朝食用シリアルからスパゲティのソースまで、さまざまな製品の改良を手掛けてきた。

色、香り、パッケージ、味、食感の改変を「人間のモルモット」でテストし、得られたデータを高度な数理モデルに反映させて、「成分とその成分が生み出す知覚の関係を調べ上げた」という。

その結果、大手食品メーカーの最も重要な武器は糖分であることが分かった。消費者の摂取量を最大化させる「完璧な量」の甘さを、モスコウィッツは「至福ポイント」という造語で表現している。

食品会社は至福ポイントを徹底活用することでアメリカ人の味覚を変え、ポテトチップスやアイスクリームを過剰摂取し、ブロッコリーやアスパラガスを敬遠するように誘導したと、モスは主張する。

最近の研究では、スーパーに並ぶ食品の66%に甘味料が加えられているという。

「企業は消費者を食品に引き付ける本能的衝動を発見し、そこに付け込む手法を学んだ」と、モスは言う。

「子供たちが2型糖尿病や、かつてはアルコールが原因の病気だった脂肪肝を発症するようになったのも無理はない」と、ラスティグは言う。

「果糖がミトコンドリアにとって毒であることは、既に分かっている。果糖は肝臓で脂肪になる。また、肝臓における代謝のされ方がアルコールとそっくりだ」

だが、糖よりもひどい害をもたらしているのが精白された穀物だ。

精白穀物はコーンフレークや白いパンをはじめとする多くの加工食品に使われているが、表皮と胚芽が取り除かれているせいで、ほぼ糖質しか含まれていない。そしてこの糖質は、外皮に包まれた全粒穀物のそれよりもはるかに短時間で消化される。

「口に入れるや否や分解が始まり、胃を通過するまでにほぼ完全に消化されている。そして小腸にたどり着いた頃には完全に吸収されている」と、タフツ大学栄養学部のダリウシュ・モザファリアン学部長は言う。

消化が速すぎるせいで、消化器系が健康的に機能するために重要な腸内細菌に十分な栄養が届かない。

これが原因で腸透過性が高進し、細菌や毒素が血流に入り込みやすくなり、その結果として広汎な炎症が引き起こされる恐れがある。これはセリアック病や糖尿病、ぜんそく、アルツハイマー病や癌などさまざまな病気の発症要因となる。

また、すぐに消化・吸収されるせいで血中にブドウ糖が大量に流れ込み、インスリンのレベルが急上昇する。これは長期的に見て、ホルモンシステムの調節異常につながる可能性がある。

そうなるとホルモンは、体を機能させるのに必要なカロリーが不足してでも脂肪をたくさん蓄えるよう命令を出すようになる。エネルギー不足になった体は、食べ物を強く欲するようになる。過食の人の飢餓感がいくら食べても解消しない理由はここにある。


肥満と依存症の意外な関係

「肥満の患者を多数診てきて思うのは、何を食べるかの選択については、効果を実感すると人は大いに自制心を働かせることができるということだ」と語るのは、ハーバード大学医学大学院および同大学公衆衛生学部のデービッド・ラドウィグ教授。

「難しいのは、常にとてつもない飢餓感にあらがうことだと思う」

食生活を変えれば脳も変わるかもしれないと考える専門家もいる。過食の原因となる異常な食のパターンと脳との間の配線を直すのだ。

「問題は、これらの企業がソーダやクッキーやアイスクリームなどに完璧な量の甘さを持たせたことではない。パンやヨーグルトやスパゲティソースなど、昔は甘くなかった食べ物に糖を加えたことだ。その結果、何でもかんでも甘くすればいいという風潮が生まれた」

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児内分泌学者ロバート・ラスティグによれば、最もよく使われる甘味料の1つである果糖は、今や多くの食品に自然界では考えられない濃度で含まれている。

近年の研究によれば、果糖はミトコンドリアの健全な働きに欠かせない重要な酵素を破壊したり不活性化したりすることが分かっている。

ミトコンドリアは細胞内の発電所のような存在で、単糖類を燃やして人間が身体や脳を機能させるのに使うエネルギーであるATP(アデノシン3リン酸)に変換する。

このエネルギー変換に支障が出ると、処理されないブドウ糖が増え、血液中を循環する。過剰なブドウ糖を感知した膵臓はインスリンを分泌し、ブドウ糖を血流から除去して脂肪として蓄えるように指示する。

この脂肪の一部は肝臓に蓄積される。肝臓は胃から出た血液をろ過し、加工し、バランスを取る器官だ。

ここが正常に機能しないと、問題が発生する。通常ならミトコンドリアが供給するはずのエネルギーを奪われた私たちは、さらなる過食に走る。

米国立薬物乱用研究所(NIDA)のノラ・ボルコウ所長は、食物依存研究の草分け的存在だ。

ボルコウは依存症の患者が薬物やアルコールに対して抱くあらがい難い欲求と、肥満の人々の食への欲求の間の共通点に関心を持ち、80年代に研究を始めた。薬物依存の患者と重度の肥満や過食症の人々、それぞれの脳の異常な活動パターンの間に関連性があることを示す証拠が近年、見つかっているとボルコウは語る。

肥満は内分泌疾患だと考える研究者たちは当初、ボルコウの研究を全く認めようとしなかったという。

だが「ニコチンであれ超加工食品であれ、あらがい難い反応、つまり自然な食品ではあり得ないやり方でドーパミン作動性システムを操作する反応を最適な形で引き起こすよう設計されているのであれば、何の違いもない」と、ボルコウは言う。

マウント・サイナイ医学大学院のニコール・アビーナ准教授(神経科学)は2000年代初め、砂糖が依存性のある物質の科学的基準に当てはまるかどうかの研究を始めた。

きっかけは、薬物依存症の治療を受けている人々が、ヘロインを断つより砂糖を断つほうが難しいと語っているのを聞いたことだ。

その結果、動物であれ人間であれ砂糖は過剰摂取と禁断症状、食べたいという強い欲求を引き起こすことが分かった。いずれも薬物依存症ではおなじみの症状だ。

また脳内で、薬物依存症の患者に見られるのとほぼ同じ神経化学的変化や神経画像的変化が起きていることも分かった。


コカイン並みに高い依存性

砂糖の依存性は、超加工食品に含まれる他の材料と組み合わされるとさらに高まる。ラットを使った研究では、砂糖はコカイン並みに依存性が強いとの結果が出た。

「人間の脳は、こうした(超加工食品に使われる新しく)さまざまな材料を、現代人が口にしているくらい大量に処理するようにはできていない」と、アビーナは言う。

超加工食品とたばことの「関係」は、ほかにもある。

80年代から2000年代の終わりにかけ、大手食品メーカーが大手たばこ会社の傘下に入る例が相次いだ。ナビスコは1985年にRJレイノルズに、後にフィリップ・モリスに買収された(現在は独立)。ゼネラル・フーズやクラフトも一時、フィリップ・モリスの傘下にあった。

薬物などが依存症を引き起こす大きな要因の1つは、体内に入ってから脳の報酬系を刺激するまでの時間の短さだ。

食品メーカーを買収した時点でたばこ大手は既に、自社製品がニコチンを脳に送り込むスピードを研究、最適化するという経験を何十年も積んでいた。その知見を加工食品にも応用したわけだ。

「超加工食品は食べる前から咀嚼されているようなものだ」と、ミシガン大学のギアハートは言う。

「口の中ですぐに溶けてしまう。あっという間に味蕾(みらい)に触れて、脳の報酬系や動機付けに関わる部位を刺激する。その後、体に吸収された際にドーパミンの第2撃が起きる」

超加工食品がもたらす脅威の深刻さに、政治家もようやく対策に動きだそうとしているようだ。

米政府監査院(GAO)は昨年8月、食生活と関連した慢性疾患と政府の対応策についての報告書をまとめたが、内容は気がめいるようなものだった。

17~24歳の若者のうち、体重が理由で米軍の採用基準に合わない人の割合は30%を超える。2018年には、連邦政府の医療関係支出(3836億ドル)のうち、心血管疾患や癌、糖尿病など食生活関連の病気によるものが54%を占めた。

また、こうした病気は2018年に死亡した人の半数を超える約149万人の死と関連があった。

ホワイトハウスに対しては、米国民の食生活をテーマにした会議の開催を求める声が超党派の議員から上がっている。

コリー・ブッカー上院議員(民主党)はこう述べた。

「アメリカは世界で最も豊かな国でありながら、栄養がなくカロリーばかり高い食品の過食を絶え間なく促すような食料システムをつくり上げてきた。これは病気を引き起こすとともに、国の医療費負担が年に数兆ドル規模で増え続ける元凶となっている」


「ソーダ税」への猛烈な反撃

公衆衛生当局は近年、「最も手が届きやすいところになる果物」とも呼ばれる高カロリー・低栄養の食品の対策に本腰を入れている。

例えば、炭酸や甘味料入り飲料の消費を減らすためにいわゆる「ソーダ税」の導入を提言し、政府の食料支援の対象食品を制限しようとしている。

それに対して食品業界は、ロビー活動や選挙資金の提供、世論への働き掛けなどに数千万ドルを投じ、猛烈な反撃に出ている。

カリフォルニア州では、4都市でソーダ税の法案が可決されている。

飲料業界は2018年に700万ドルを投じて住民投票を求める運動を支援し、地方自治体があらゆる種類の新しい税制度を導入する条件を厳格化しようとした。その後、カリフォルニア州議会が砂糖入り飲料への課税を12年間猶予することに合意し、業界は住民投票運動を取りやめた。

アメリカで食生活のガイドラインに「超加工食品」という言葉が出てくるのは参考文献欄だけだと、ニューヨーク大学のネスルは言う。この言葉が目立ち始めたら「食品業界は逆上するだろう」。

アメリカで5年ごとに更新されている食生活のガイドラインについて、2015年に科学者の専門委員会が、「健康とサステナビリティー」のために肉食を減らすことを推奨するよう提言した。

しかし、業界のロビイストが動いて農務省にガイドラインの修正を約束させたと、ネスルは言う。

「店などが食事を提供する量を制限する、広告やマーケティングに規制を課す、連邦政府の補助金政策を変えて健康的な食品を入手しやすくするなど、できることはいくらでもある。ただし、何を試みても食品業界と対決することになる。誰もそんなことはしたくない。食品業界はとても強力なのだ。彼らと戦おうと口にした途端に、『おせっかいな国家主権主義』と非難される」

政治家の考えを変えるには、時間と研究と世論の圧力が必要なのかもしれない。今のところ最も期待されている解決策は、より健康的な製品に対する消費者の需要を喚起することだ。

実際、多くの食品会社は、食生活に配慮した健康的な製品が求められていることを認識している。

超加工食品が食べすぎや体重増加を誘発する理由については、栄養学でも熱心に議論されている。

タフツ大学のモザファリアンは「栄養について、国を挙げた野心的な取り組みが必要になっている」と語る。「私たちは食生活に関連する病気の海で溺れている」

「超加工食品が有害な影響を引き起こすメカニズムをもっとよく理解し、国民の健康を改善するための具体的な政策や改善点を模索しなければならない」と、NIHのホールは言う。

ホールは、同じくらいおいしい加工食品と非加工食品を使って、「おいしいからたくさん食べる」のではないことを確かめるための対照実験を計画している。

新しい結果から私たちの理解が深まり、行動に結び付くことを期待したい。