アルコール消毒薬が効きにくい「ノロウイルス」&合併症に注意「インフルエンザ」…予防法を専門医が解説 

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ヨミドクター(読売新聞)

 新型コロナウイルスは、オミクロン株の出現で過去最大規模の感染拡大となっています。地域の診療では今、何が起こっているのでしょうか。「検査希望者は発熱外来のキャパの2倍以上で、すでにパンク状態」と言うのは、多摩ファミリークリニック(川崎市)院長の大橋博樹さん。陽性率が7割を超えた日もあり、検査キットの不足が予想外の問題となっています。感染者は増えても、「若い方にとってはインフルエンザのようなもの」というのがオミクロンの特徴で、心配しているのは、感染が広がりつつある高齢者への影響です。新型コロナが上陸して2年、当初から新型コロナ診療に携わってきた大橋さんに、オミクロン感染爆発の現状を聞きました。(聞き手・渡辺勝敏)

発熱外来受診希望者はキャパの2倍以上、陽性率74%の日も

――新型コロナが上陸した当初から発熱外来を続けてこられましたが、今はどのような状況ですか。

 1月の3連休明けの11日から、急激に患者さんが増えてきました。午前11時以降を発熱外来にしていたのですが、この翌日からは、午前は発熱外来のみにして、1日40人を診察できるようにしました。24日になると、それでも対応できず、その日の電話予約が30分でいっぱいになり、25日には60件をお断りせざるを得なくなりました。10人ぐらい枠を広げてなんとかなるという状況ではないので、どうすればいいのかと考えあぐねています。夏のデルタ株の時とは患者さんの数が違います。陽性率も高くて、60%ぐらいが多く、74%の日もありました。

――感染の広がりはすさまじいですね。落ち着くまで、発熱外来の診療体制をさらに強化するのでしょうか。

 問題はマンパワーの体制だけではないんです。検査キットなどが足りなくなっているんです。うちは、その場で結果が出る抗原検査と、結果が翌日以降になるPCR検査をやっていますが、抗原検査キットは25日に200人分が届いて、それ以降の見通しが立っていません。PCR検査も結果が出るまで時間がかかるようになってきているし、検査で取った唾液や鼻に入れた綿棒を入れる容器が足りなくなっているという話も出ています。人員を確保すれば検査を増やせるのか、その辺りも見極めないといけません。

検査キット不足 家族なら代表者の検査で判断も

――検査をしなくても、医師の判断で新型コロナ感染と診断してもいいという方針を厚生労働省が示したのは、検査数の増加や検査資材が足りないという問題があるんですね。

 検査資材の問題はあるのですが、オミクロン株の潜伏期間が短くて感染力が強いという特徴にも関係しています。デルタ株までは、例えば、感染したお父さんがよくなったころにお母さんが陽性になって続いて子供というように、1人ずつ発熱外来に来ていました。ところがオミクロン株は、早いと数時間単位で家族全員が発熱するので、発熱外来に家族4人や3人でおいでになることもあるんです。検査をした1日の上限40人が、15家族だったこともあります。

 ですから、ご家族で症状が出ている場合は、代表してお父さんの検査をして、陽性だったら家族も陽性と判断していいということになれば、発熱外来でもっと多くの人を受け入れることができます。家族内や濃厚接触者については医者が判断していいというのは、そういうことです。今や貴重な抗原検査やPCR検査ですから、そういう運用も納得がいくものではないかと思います。検査は、受けなければいけない人に行うようにしたいです。ご本人は軽い症状だったとしても、ご自宅に高齢者や基礎疾患をお持ちの方がいる場合は白黒はっきりさせないといけません。

オミクロン株はのどに症状 重症者も肺炎ではない

――オミクロン株は、のどに症状が表れて、重症化しにくいと言われていますが、診療現場の実感としてはいかがですか。

 昨年のデルタ株の患者さんは、呼吸器に症状が出て診察室でゴホゴホされていました。オミクロンの場合は、のどが痛くて、「ウウン」ってせき払いをする方が多いですね。それに、頭痛がある方が結構いらっしゃいます。症状からは、新型コロナなのか、風邪ともインフルエンザとも判断はつきません。症状には個人差が大きくて、インフルエンザのように40度近い熱がポンと出てぐったりしている人がいれば、特につらくはない方もいます。ただ、若い人や基礎疾患のない方は、怖がることは全くないだろうと思います。

――オミクロン株で重症化する患者さんも経験されましたか。

 入院された高齢者の方が数人いますが、デルタ株の時とは全く病状が違います。デルタ株では若くても肺炎で亡くなる方がいて、医者として恐怖感がありました。高齢者も含めて重症度を測るのは、肺炎になっているか、血中の酸素飽和度がどうかでした。一方、オミクロン株で重症化する高齢者は、私が診ている範囲では、肺炎ではなく、食欲が低下して水分が取れなくなって脱水状態で全身状態が悪化した人や、糖尿病など基礎疾患が悪化した患者さんです。高齢者に感染が広がって、こうした患者さんが増えると怖いと思っています。

高齢者のデイサービスでクラスターも

――国は、感染が広がっている地域にまんえん防止等重点措置をとっています。こうした対応をどのように受け止めていますか。

 飲食店の営業時間や酒類の提供制限はよく市民に浸透しています。ただ、今回は、家庭や高齢者施設、保育園での感染が多く、飲食店以外で必要な対策についての理解が十分に広がっていないように思います。高齢者のデイサービスは感染予防対策の施設間の格差が大きくて、利用者10人ぐらいがテーブルを囲んで一緒に食事をし、クラスターが発生した例が地域で出ています。家族から感染して微熱程度の方が、デイサービスの活動に参加して広がったというケースです。食事の時間をずらすとか、対策が必要だと思いました。利用者がマスクをしていない施設もあります。保育園では、年長さんぐらいにならないとマスクは難しいと思いますが、大阪で行っているような保育園の登園自粛の呼びかけも必要かなと思います。園児に陽性者が出て閉園するリスクを少しでも下げるためです。

対策を緩めるのは高齢者の重症化への影響を見極めてから

――実際には、感染者の多くが風邪やインフルエンザと変わらない症状のようですが、これだけ感染者が多くなると、濃厚接触者が増え、長く自宅療養しなければいけないルールが社会活動の制約になっています。ここまでの行動制限は必要なのでしょうか。

 うちの診療所のスタッフにも陽性者が1人、濃厚接触者が1人いて療養中ですし、近くの病院でも休まざるを得ない人が出てきていて、感染を広げないためのルールが医療現場逼迫ひっぱくの原因のひとつになっています。とはいえ、オミクロン株は若い人には問題にならないという考えには同意するものの、高齢者や基礎疾患のある人が感染しても重症化しないということが見極められる時期ではありません。それにオミクロンの次に出てくる変異株が、弱毒化するかどうかもわかりません。医療者として、行動制限は必要な措置だと考えています。

――3回目のワクチン接種の重要性を訴えてこられましたが、なかなか進んでいませんね。

 3回打てばオミクロンにも7割の有効性があるというデータがあるので、この結果を受け止めて3回目を進める必要があります。川崎市でも2月から本格的な接種が始まります。2回打って、3回目をちゅうちょする方もいるようですが、一般にワクチンは、3回打ってひとつのパッケージですので、そこを迷うのはアンバランスな感じがします。副反応が強かったモデルナも、3回目は半量なので、副反応は少なくなったというデータが集まっています。ワクチンそのものを打つか打たないかの考えはそれぞれあると思いますが、医療側としては、すでに2回打った人が3回目を打つのは当然と考えています。

――新型コロナはこれからどうなると思いますか。

 今は発熱外来で希望する患者さんを受けられない状態ですから、この波でおぼれないように、どうやって患者さんを受け入れていくかを考えるだけで精いっぱいです。先の見通しとなると、一般のみなさんと同じで、この波の先行きが来週か再来週には見通せて、終わりが見えてくれば本当にいいなぁと願うのみです。ただ、クリニックを預かる身としては、さらに、「次の波」が来ることも考えておかなければいけないと思っています。



性感染症がコロナ禍でより広まった可能性、どういうこと?2022/01/28 08:00  ナショナル ジオグラフィック日本版

 新型コロナウイルス感染症が流行した2020年は、人と会う機会が減ったために、性感染症も減少したのではないかと思うかもしれない。しかし米国では、逆に性感染症が増えている可能性があると専門家たちが警戒を強めている。

 最も懸念されている点は、パンデミック(世界的大流行)の影響で、クラミジアや淋病、梅毒などの性感染症の検査が過去2年間、後回しにされてきたことだ。こうした感染症の抑制には、検査が重要な役割を担う。クラミジアや淋病は、感染してしばらくは何の症状もないためだ。

 米疾病対策センター(CDC)のデータによると、2015から2019年までの4年間で、この3つの性感染症の報告例は全て30%増加していたが、2019から2020年の1年間に、クラミジアの症例は14%減り、梅毒も、第1期、第2期ともに0.9%減少した。しかし、この数字に関して専門家は、検査数が減っただけであって、感染者数が実際に減ったわけではないとみている。

 その理由のひとつは、2020年の乳幼児の梅毒感染例が2019年を上回っていたというCDCのデータだ。また、2021年のデータはまだ収集段階にあるものの、初期の報告では淋病の症例が増加しており、既に心配な兆候がある。

 米ペンシルベニア州立大学公衆衛生学助教のケイシー・ピント氏が率いた研究によると、新型コロナの新規感染者数が全米で増加していたのと同じ時期に、性感染症の検査数は激減していた。例えば、ニューヨーク州では新型コロナ検査の陽性率が25%を超えた2020年4月までに、性感染症の検査数は75%以上減少した。この研究は、2021年5月19日付けで医学誌「American Journal of Preventive Medicine」に発表されている。

 米ワシントン大学の医学・疫学准教授で、ワシントン州シアトル市とキング郡によるエイズ・性感染症プログラムの副局長を務めるジュリー・ドンブロウスキー氏は、「新型コロナによって、性感染症の防止にここまで成功したとはとても考えられません」と話す。

 新型コロナ対応に追われ、多くのクリニックは症状のある患者を優先させた。「その判断をするのは、非常につらかったです」と、ドンブロウスキー氏は言う。性感染症にかかると、治療しなければ不妊症や失明などの深刻な結果を招いたり、死に至る場合もある。さらに、エイズウイルス(HIV)に感染するリスクも高まるとCDCは警告している。感染による膿や炎症を放置していれば、そこからHIVが侵入し、感染しやすくなってしまう。

 医療現場では性感染症が増加しているという医療従事者も多い。「いつもより陽性者が増えています」と、米アラバマ大学バーミンガム校の医学・公衆衛生学准教授で、同大学の性感染症診断研究所長であるバーバラ・バン・デル・ポル氏は言う。

 はっきりした感染者数がわからない状況は何より心配だ。知らず知らずのうちに、感染が広がっているおそれがある。女性の場合、淋病に感染しても症状が出ないことが多い。クラミジアは米国で最も報告例が多い細菌による性感染症だが、最大で男性の場合は50%、女性は80%までが無症状だ。どちらの感染症も、排尿時の痛みが一般的な症状で、適切な検査をしないと尿路感染症だと誤診されることがある。

性感染症の検査はなぜ減ったのか

 パンデミックが始まってから数カ月間は、性感染症の検査を実施する診療所の多くが、通常の診療を休止して新型コロナウイルスの検査や接触者追跡の対応に回っていた。全米50州の医療機関と連携する公衆衛生団体「全米性感染症科長連合会(NCSD)」は、2020年5月までに全米の性感染症関連プログラムの83%で通常の診療が延期され、診療所の66%で検査数が減り、2020年8月までに性感染症関連プログラムの20%が完全に中断されていたと報告している。

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シアトル市とキング郡のエイズ・性感染症プログラムでも、職員の多くが新型コロナ対応に回されていたと、ドンブロウスキー氏は言う。そのため、米国の他の多くの保健所や診療所と同様、「たちまち、症状がある患者や、即日治療が必要な患者を優先させるようになりました」と言う。しまいには、無症状者の検査を完全にやめてしまったという。2019年4月には990人の患者を診察していたが、1年後、その数は399人に減っていた。

 ワシントンD.C.にある診療センター「ウィットマン・ウォーカー・ヘルス」の性健康部長であり、ナース・プラクティショナー(一定レベルの診療と薬の処方ができる看護師)のアマンダ・ケアリー氏は、以前なら予約なしの診療や検査を求める患者で待合室がいっぱいだったが、パンデミック中は完全予約制にしていたという。ウィットマン・ウォーカー・ヘルスが提供したデータによると、同センターでは2020年に、クラミジア、淋病、梅毒の検査数が2019年と比較して累積で43%減少した。

 もう一つ、診療所が直面した問題は、検査キットの不足だった。CDCが資金を出している59の性感染症プログラムを対象に調査を行ったところ、2020年4月に回答した施設のうち51%が、淋病とクラミジアの検査キットが不足していると答えていた。CDCはその後も回答を集めていたが、翌2021年1月までの結果を見ても、38%がキット不足を訴えていた。論文は2021年10月21日付けで医学誌「Sexually Transmitted Diseases」に発表された。

 バン・デル・ポル氏によると、性感染症の検査には、検体を採取する綿棒など、新型コロナの検査と同じものが多く使われているという。

 そもそも検査自体も、性感染症から新型コロナのPCR検査や抗原検査に取って代わられ、検査機関の人手がそちらに奪われた。年間約2万件にのぼる性感染症の検査を実施してきたバン・デル・ポル氏の性感染症診断検査室は、2020年に検査件数が2倍に増えたものの、性感染症の検査は1件も行われなかった。

今後は性感染症の増加が確実視

 診療所も検査機関も、最近になってようやくパンデミック前の検査体制に戻りつつあり、予約なしの患者を受け入れるところも増えている。この記事のために取材した診療所や検査機関は現在、それぞれ通常の70〜80%の稼働率で対応している(1日ずつ見れば、まだ完全に元通りと言うわけにはいかない。バン・デル・ポル氏は、いまだに漂白剤や手袋といった最も基本的な消耗品も手に入りにくいという)。

 しかし、多くの専門家は、事態は深刻なことになっているのではないかと懸念する。ピント氏の研究では、2020年の3月から2020年6月までの間に見逃された性感染症の症例は15万件を超えると見積もられている。

 性感染症とHIVの検査を実施しているロサンゼルスLGBTセンターの主任疫学者であるニコール・カニンガム氏は、パンデミック当初に感染者数は減ったが、今ではすべての性感染症で増えていると話す。2021年6月には、2019年とほぼ同じ数の検査を実施し始めたところ、6月から10月の間に、淋病の累積感染者数は2019年の同じ時期と比べて23.8%増加していた。

 パンデミックの影響のせいで、実際の増加率を特定するのは難しい。症例が増えたのは、2020年に検査できなかった分が今になって処理されたからなのか、それとも実際に感染が拡大しているのかはわからない。

「性感染症に関しては、実際に何が起こっているのかを理解するのはまだ難しいです。パンデミックの前から陽性者は毎年増え続けていましたから、パンデミックがなかったとしてもある程度は増えていたでしょう」と、ドンブロウスキー氏は言う。

 だが、検査数が減ったこと、そして、無症状者を見逃していたことが、感染拡大につながったのはほぼ間違いないだろうともいう。そして同氏は、多くの専門家が、今後数カ月間で性感染症の感染者数の大幅な増加を予測していると付け加えた。