「慢性蕁麻疹は『治る』病気です。重症例でも薬なしで症状が出ないようにすることも可能です」
こう言うのは、重症慢性蕁麻疹患者を多数診ている日本大学医学部付属板橋病院皮膚科助教の葉山惟大医師。
蕁麻疹には、特定の刺激や負荷で皮疹を誘発する「刺激誘発型」の蕁麻疹と、原因不明の「特発性蕁麻疹」とがある。
刺激誘発型には、食物アレルギー、寒さや冷たさなどの寒冷刺激に反応して皮疹が出る寒冷蕁麻疹、汗によるコリン性蕁麻疹、日光に当たって起こる日光蕁麻疹などがある。これらは原因を除去することで蕁麻疹が出るのを避けられるが、実は、刺激誘発型の蕁麻疹は全体の3割ほど。
「7割は原因不明の特発性蕁麻疹で、その半数が、症状が6週間以上続く慢性特発性蕁麻疹。患者さんの話をよく聞いて、蕁麻疹に関連していると思われることがあれば可能な範囲でそれを除去してもらいますが、大半が原因不明の蕁麻疹ですし、原因が特定できても完全に除去するのは難しいケースも多々あります。その場合は原因特定、原因除去にこだわり過ぎず、薬の治療に進みます」
■重症例も月1回の皮下注射×3回で7割が改善
■重症例も月1回の皮下注射×3回で7割が改善
薬物治療はまず、薬で症状を出ないようにする。使うのは、花粉症などにも使う抗ヒスタミン剤だ。眠気などの副作用が少ない非鎮静性第2世代抗ヒスタミン薬を毎日飲んでもらう。通常量でよく効けば続行。効き目が不十分ならほかの抗ヒスタミン剤へ変更したり、薬の量を増やしたり、2種類を併用したりして様子を見る。
「2週間ほど服用してもらい、それでも症状が出るようなら、胃痛や胃もたれに使うH2-拮抗薬、鼻炎に使う抗ロイコトリエン薬を追加します。いずれも蕁麻疹には保険適用外になるため、慎重に投与を検討します」
重症例にはこれでも効果がない人がいる。その場合、蕁麻疹の治療ガイドラインには、生物学的製剤のオマリズマブ、シクロスポリン、内服の副腎皮質ステロイドのいずれかの使用が記載されている。シクロスポリンは保険適用外、副腎皮質ステロイドは1カ月以内に減量または中止のめどが立たなければほかの治療への変更が検討される。
「私はオマリズマブを使うことが多いです。月1回の皮下注射で、3回の投与で約7割の患者さんの症状が改善します。当院では、重篤な副作用は出ていません」
ここからがまた専門医の腕の見せどころだ。症状が薬で抑えられることが3カ月間確認できたら、薬の量や飲む頻度を減らしていく。
抗ヒスタミン剤を1日2剤服用している人なら、4カ月目辺りから1剤に減らす。2〜4週間症状が出なければ、2日で1粒。2〜4週間症状が出なければ3日で1粒。このように、徐々に減らしていくのだ。
「途中で症状が出たら、薬の量や飲む頻度を調整し、症状が出ない状態を保てるようにします。肝心なのは、急に薬を減らしたりやめたりしないこと。患者さんとしては、症状が出ていないのだから薬が不要なのでは、と思われる方もいます。しかし、自己判断でやめると再発しやすい。時間が必要なことを十分に説明し、治療を行います」
結果、「薬なしで症状が出ない」が実現できるのだ。
■蕁麻疹の症状
皮膚の一部がくっきりと赤く盛り上がり、体のあちこちにできる。かゆく、時に焼けるような感じになることも。しばらくすると跡形もなく消えるが、また症状が出る……を繰り返す。塗り薬は効かない。
滋賀県守山市のアパートで女子高生が薬物中毒で死亡した事件。未成年者誘拐の疑いで逮捕された2人と生徒は、薬を過剰摂取して精神的苦痛を和らげようとする「オーバードーズ」(OD)の仲間だった。近年、せき止めや風邪薬といった市販薬のODが若者の間で深刻化している。薬局などで手軽に入手できる半面、中には神経を興奮させる成分を含んだものも。依存症になる危険があるとして、専門家は注意を呼び掛けている。
ツイッターで「多幸感」投稿を見て
「将来への不安や寂しさから逃れたかった」。九州の高校に通う女子生徒(19)は先月下旬、初めてODをした時の理由を話す。
母親から精神的虐待を受けて育ち、現在は一人暮らし。その日は夕方からの約4時間で、せき止め薬28錠を摂取した。まず1回分の用量の3倍に当たる12錠、1時間後に8錠、さらに8錠を飲んだ。緊張がほぐれ、意識がもうろうとした。翌朝は学校へ行ったが「ODをしている間は何も考えなくて済むのがよかった」。薬はインターネットで買ったという。
きっかけは、ツイッターにあった「せき止め薬を飲むと、多幸感を得られる」などの投稿だ。「未成年だからお酒は駄目だし、覚醒剤などの違法薬物を使うと逮捕される。ODなら問題ないと思った」と言う。何でも相談できる高校の養護教諭には打ち明けたが「またやってしまうかもしれない」と不安は大きい。
せき止め薬に神経を興奮させる成分
厚生労働省の研究班は昨年9〜10月、薬物関連の患者がいると回答した精神科医療施設232カ所、患者2733人を調査。全年代を見ると、患者が乱用した主な薬物は覚醒剤が最も多く、53.5%を占めた。ただ、10代の39人では市販薬が56.4%と最多。2014年の0%から増え続けている。
研究班の責任者を務める国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さん(54)によると、多いのは「dl−メチルエフェドリン塩酸塩」「ジヒドロコデインリン酸塩」という成分を含むせき止め薬の乱用だ。用法・用量を守れば問題ないが、メチルエフェドリンは神経を興奮させる作用があり、覚醒剤の原料にも。ジヒドロコデインは麻薬の成分だ。
どちらも脳の中枢神経に働き、依存性が高い。なかなかやめられないだけでなく、服用をやめると意欲をなくしたり、倦怠(けんたい)感に襲われたりと抑うつ状態に。内臓の負担も大きく、体に影響が出るリスクもある。
「乱用の恐れ」薬局販売は1人1箱
厚労省はメチルエフェドリンやジヒドロコデインなどの6成分を含む医薬品を「乱用の恐れがある薬」に指定。薬局で販売する際には、原則1人1箱とし、複数購入する場合は理由を尋ねるよう義務付けている。相手が中高生など若い場合は、氏名や年齢を確認することも定めている。
ただ、匿名性の高いネットでの購入はハードルが低い。加えて、ODを繰り返す人の投稿があふれるネットは、若者たちが「捕まらない薬物」として市販薬の情報を得る場になっているのが現状だ。
無理にやめさせようとするのは逆効果
松本さんによると、乱用に悩んでいるなら、まずは信頼できる友人や大人に相談することが大事。周囲が無理にやめさせようとするのは逆効果だ。どんな問題を抱えているのかをしっかり聞き、正直に話し合える関係を築いてから、精神科を受診するのが望ましい。
せき止めや風邪薬の中には、メチルエフェドリンやジヒドロコデインを使っていないものもある。「製薬会社は代替できるものは代替するよう検討を」と松本さんは言う。その上で「乱用の恐れがある医薬品はネット販売を禁じたり、内容量を減らしたりなどの対策も必要」と訴える。
「ヒートショック」から老いた親をどう守る? 年間約2万人が入浴中に死亡2021/12/21 09:26 日刊ゲンダイDIGITAL
厚労省研究事業の推計でヒートショックとみられる入浴中の急死者数は年間1万9000人。温度の変化によって血圧がアップダウンし、心臓や血管の疾患が起こる。なんとか寒波が来る前に対策を講じたい。
◇ ◇ ◇
気象庁によると、年末から年始にかけ北極海付近の寒気が南下し、全国的に厳しい寒さに襲われるという。
そうなると怖いのが「ヒートショック」だ。
〈入浴して20分後くらいに様子を見に行くと浴槽内で意識がなかった〉
これは、消費者庁に寄せられた80代のおばあちゃんの死亡例だ。ヒートショックは寒暖の差で血圧が上下に大きく変動することによって起こる健康被害。心筋梗塞や不整脈、脳梗塞を起こす原因となり、特に12〜2月の冬場に起こりやすい。
リスクの高い属性としては、高齢者や血圧の高い人。東京都健康長寿医療センター研究所の調べでは、入浴中の死亡者の過半数が80歳以上の後期高齢者で、65歳以上で全体の9割を占めた。もっとも、若いからといって安心はできず、普段から「立ちくらみ」をするという人は気を付けたい。入浴中に失神すれば溺死につながる恐れがある。
寒暖の差が原因と聞くと、真っ先に北海道や青森、秋田などの北国を思い浮かべるが、必ずしも死亡との因果関係があるわけではない。
リンナイ調査「危険県は大分、宮崎、千葉」
浴室暖房乾燥機などで知られる「リンナイ」がヒートショック予備群を調査したところ、「20分以上の長風呂」「脱衣所や浴室の暖房設備の不備」「一番風呂」といったリスク要因を多く抱えている都道府県民は、ワースト1位が大分県で、2位が宮崎県、3位は千葉県と比較的温暖な地域が入った。逆に予備群の割合が低かったのは長野県、青森県、和歌山県だ。
「九州であっても冬は脱衣所も冷えてヒートショックの危険があります。一方、和歌山はヒートショック予備群が最も少なく、長野、青森といった寒さの強い地域ではヒートショックへの備えができていることがうかがえました」(調査を監修した早坂信哉氏=東京都市大学人間科学部教授)
■体を温めるため20分以上の長湯がいい?
また、ヒートショックのリスクを避ける上で、正しい入浴の仕方を理解していない人が多い。
例えば、「20分以上湯船につかり長風呂を楽しむ」というのは冬場に多くの人がやっていそうだが、脱水症状や心筋梗塞のリスクを高めてしまう。さらに「寒さを我慢して換気する」もダメで、いくらコロナ禍とはいえ、窓を開けての冷たい外気の呼び込みはなるべく避けたい。「冷たい水での手洗い」「裸足で廊下や室内を歩く」も注意すべきで、ヒートショックの原因となる。これは浴室でなくとも、トイレなど10度以上の温度差がある場所の行き来も危険だ。
一方、良い入浴法としては「入浴前のかけ湯」がある。入浴前に手足の先からたっぷりかけ湯をすることがオススメ。
「湯船のフタを外してお湯を張った方が、浴室内の温度が上がってヒートショックの予防になります。また、この季節は次に入る家族のためにフタをして出ますが、それも冬場は避けた方がいいでしょう」(リンナイ広報担当者)
お風呂の温度は41度以下に設定
リスクの高い高齢者などは入浴時間を日没前にするのも手だ。先の東京都健康長寿医療センター研究所で副所長を務めた高橋龍太郎医師は、「人間の生理機能は午後2〜4時ごろがピークになるので、夜に入浴するよりも体の温度差への適応がしやすい」として日没前の入浴を推奨している。日没前であれば、部屋と浴室の温度差も少なく一石二鳥だ。
理想はリビングなど部屋と同じ温度にしておくこと。北海道など寒い地域の住居は「湯沸かしボイラー」の余熱で脱衣所自体を暖める仕組みになっている。
東京ガスなどでつくる啓蒙団体「STOP!ヒートショック」では、次の5つの対策を提唱している。
①「お風呂に入る前の湯はり時に浴室を暖めましょう」(浴室暖房乾燥機などをONにする)
②「脱衣所も事前に暖めておきましょう」
③「お風呂の湯はりの温度は41度以下に設定」(熱い湯は血圧が上がるため)
④「入浴前には家族に一言かけましょう」(離れて暮らす場合はSNSなども活用)
⑤「入浴前に水分を取る」(熱中症予防にもなる)
■「あ〜」とうなりながら湯につかる
変わり種の対策として意外にバカにできないのは、湯船につかる際に「あ〜」とか「う〜」とうなり声を出すこと。昔のオヤジのように「極楽、極楽」でもいいし、声を出すことで血圧上昇を抑える効果が期待できるという。
最低限、高齢者と暮らす家族は、おじいちゃんやおばあちゃんを「一番風呂」に入れてはいけない。そして湯船につかった頃合いを見計らい、「湯加減はどう?」と様子を見にいくことが大事だ。
高血圧の放置がリスク 心臓弁膜症、症状がなくても油断は禁物2021/12/21 11:00 NIKKEI STYLE
体中に血液を循環させる心臓。4つの部屋の出入り口に弁があり、血液が逆流せず一方に流れるようにしている。この弁に不具合が起こるのが心臓弁膜症だ。症状がなくても油断は禁物。注意点をまとめた。
心臓弁膜症には大きく2つのタイプがある。弁がしっかり閉まらず、血液が逆流するのが閉鎖不全症。それから弁が正常に開かず、出入り口が狭くなって血液が流れにくい狭窄(きょうさく)症がある。特に血液を全身に送り出す心臓の左側(左心系)に位置する僧帽弁と大動脈弁に起こる例が多い。
加齢で動脈硬化が進むと、弁が硬くなるなどするため、高齢者に目立つ。ただ虎の門病院(東京・港)の山口徹雄・循環器センター内科医長は「僧帽弁を支える腱索(けんさく)と呼ばれる組織が何らかの原因で切れ、弁の異常が起こることがある。若い人でもありうる」と説明する。
厄介なのは初期には症状が出にくい場合があることだ。心臓のポンプとしての機能に大きく影響するようになれば疲れやすさや息苦しさ、動悸(どうき)など、さらに重くなると、胸痛や失神を起こすことがある。とはいえ軽症から中等症の段階では自覚できる症状がほとんどない人が目立つ。山口医長は「健康診断の聴診で『心雑音がある』と指摘され、検査してみて見つかることも多い」と話す。
心臓超音波検査(心エコー)などで弁に血液の逆流や通過障害など明らかな異常が認められれば弁膜症と診断される。しかし即手術となるわけではない。自覚症状がなく、弁の異常の程度が低いと、積極的な治療はせずに「経過観察」となる例が少なくない。
心臓の負担や症状を和らげるために薬が出される場合はあるが、弁膜症そのものを治すためのものではない。根本的な治療としては正常に働かなくなった弁を修復したり(弁形成)、取り換えたり(弁置換)する必要がある。
方法は胸を切り開く外科手術が一般的。最近は太ももの付け根の静脈から医療用の細い管を心臓まで届かせるカテーテル治療もある。東京心臓血管・内科クリニック(東京・中央)の柴山謙太郎院長は「年齢や体の状態により最適な治療法は異なる。医師の説明を十分聞き、どの方法を選ぶか納得してから受けるようにしてほしい」と話す。
経過観察中の生活は基本的に普段と同じでよいが、息苦しさなど異常がみられたら、すぐに医療機関を受診する。生活習慣病の治療にも気を配りたい。とりわけ心臓に負担がかかる高血圧は放置せず、しっかり対処したい。
山口医長は「心臓弁膜症があって歯科治療を受けるときには特に注意してほしい」と付け加える。「感染性心内膜炎」のリスクが高まるのだという。歯科治療の際、口の中の細菌が血管内に入り、心臓にまで届いて起こる。まれなケースだが、感染によって心臓の弁が壊され、症状が悪化して死に至った例もある。
歯科治療は抜歯や虫歯の治療にとどまらず、歯石除去でもリスクがあるとされる。山口医長は「歯科治療の前に抗菌薬を服用すればリスクを軽減できる。治療する予定がある人は心臓の主治医にあらかじめ相談してほしい」と訴える。日ごろから口の中を清潔に保つよう心掛けるのも大事になってくるだろう。
(ライター 坂井 恵)
[NIKKEI プラス1 2021年12月11日付]