ロンドン(CNN) 新型コロナウイルスの感染拡大が続く欧州で、ワクチン未接種者に対する姿勢を強め、社会から隔離する措置に乗り出す国が増えている。

連立政権が樹立する見通しとなったドイツでは、新型コロナ対策を強化するための法案が議会に提出された。

法案は、娯楽施設などへの入場に加えて、バスや列車に乗車する際にもワクチン接種証明書か陰性証明書の提示を義務付ける内容。

この措置について緑の党のロベルト・ハーベック共同党首は14日、公共放送ARDに対し、実質的な「ワクチン未接種者のロックダウン」と位置付けた。

法案はドイツ社会民主党(SPD)と自由民主党(FDP)、緑の党が共同で提出。連邦議会で採決が予定されている。

ドイツのそうした状況は、欧州連合(EU)の大部分でワクチンを拒み続ける人たちに対する憤りが強まっていることの表れでもある。

ドイツでワクチン接種を完了したのは人口の約3分の2と、西欧の中では低い水準にとどまる。政治指導者は接種率を引き上げようと強硬姿勢を強め、行動制限などの対策を打ち出している。

感染者数は急増し続け、1日当たりの新規症例数は7日間平均で4万例に近づいている。これはパンデミックが始まって以来最高の水準で、今月初旬の2倍を超えている。

首都ベルリンでは15日から、ワクチン未接種者に対する新たな規制が導入された。バーやレストラン、映画館などの娯楽施設に入場する際は、6カ月以内のワクチン接種証明書、または感染して回復したという証明書の提示が求められる。ただ、現在の感染拡大は、主にワクチン接種率が低いドイツ南部と東部で起きている。

隣国オーストリアでは、ワクチン未接種の人のみを対象とした封じ込めの措置が15日から始まった。同国の人口の3分の1以上を占める未接種者は、不要不急の外出を禁止される。

欧州では各国が相次いでワクチン接種率引き上げのための措置を導入している。英国のボリス・ジョンソン首相は15日、接種完了とみなす条件として、3回目のブースター(追加)接種を義務付ける方針を実質的に確認した。

症例数が徐々に増え続けているフランスでは、既にこの措置を講じている。フランスはこのほど、欧州16カ国からの旅行者について、ワクチン未接種者の入国規制を強化した。

ワクチンに関連して緊張が高まっている国もある。ギリシャの首都アテネでは15日、公共医療機関の職員などが、病院の給与や勤務条件をめぐる抗議デモを展開した。

ギリシャの症例数は今月に入って何度も過去最高を更新。7月には医療従事者のワクチン接種が義務付けられた。しかしロイター通信によると、デモ参加者はそのために人員不足が埋められなくなったと訴えている。




第6波到来は変異次第 英国でじわり増、デルタ株から派生の亜型「AY.4.2」とは2021/11/16 08:00  AERA dot.

新しい変異が次々に生まれている。第6波が到来するかどうかは、感染性などが増すウイルスの変異が出現する可能性と、ワクチン接種や感染予防といったヒトの対策とのせめぎあいで決まる。 AERA 2021年11月22日号から。

*  *  *

 米国や欧州、ロシアなどではいったん収まった新型コロナウイルスの感染が拡大したが、国内では感染者数が激減している。このまま終息に向かうのか。欧米のように流行がぶり返し、第6波が到来するのか。

 流行するかどうかは感染する宿主であるヒトと、ウイルスのせめぎあいで決まる。

 ヒトがワクチンを打ったり感染したりしてウイルスに対する免疫を持てば感染しにくいし、感染しても重症化しにくい。マスクの着用や3密を避けるなど予防策を徹底すれば、免疫を持たなくてもかなり感染が防げる。

 一方、ウイルスの性質の変化によっても流行しやすさは左右される。ヒトへの感染のしやすさや増殖しやすさ、重症化させるか、ワクチンの効果を低下させるか、といった側面だ。

 以前とほぼ同じ対策を取ったにもかかわらず第5波が大流行した一因は、デルタ株が以前のウイルスより感染しやすく、増えやすくなった変異株だからだと考えられている。

 今後、どのような変異株が登場するのかが、第6波が起きるかどうかのカギの一つになる。

 世界保健機関(WHO)は9月21日、変異株の分類「懸念される変異株」と「注目すべき変異株」に、新たに「監視下の変異株」という分類を加えた。

■ウイルスの栄枯盛衰

 この分類に指定された変異株は、ウイルスの変異株の栄枯盛衰の縮図のようだ。一時期は大流行していたものの他の変異株に取って代わられ、警戒度が下がった変異株が名前を連ねる一方、これから警戒度が上がる可能性のある変異株も入っている。

 国立感染症研究所も10月28日、WHOにならい、変異株を3種類に分類する方針に変更した。

 感染研が国内で懸念される変異株に挙げているのは、第5波を起こしたデルタ株に加え、2020年5月に南アフリカで見つかったベータ株と、同年11月にブラジルで見つかったガンマ株の3種類だ。どちらも伝播性が高まっているとされる。

 ベータ株が国内で最後に検出されたのは今年7月27日、ガンマ株は8月31日で、世界的にも検出件数は減ってきている。ただし感染研は、ワクチンや中和抗体の効果を低める可能性があるため、引き続き懸念される変異株に分類する、とする。

 注目すべき変異株への分類は10月28日現在、ない。

 一方、新たにできた監視下の変異株の分類には、アルファ株、旧カッパ株、ラムダ株、ミュー株、AY.4.2が指定された。

 アルファ株はデルタ株の前に流行していた、英国で最初に見つかった変異株だ。国内ではほぼデルタ株に置き換わって検出されなくなったことなどから警戒度が下げられた。

 旧カッパ株は、20年10月にインドで見つかった。WHOは21年4月、デルタ株と同時に注目すべき変異株に分類したが、その後感染は広がらず、インド国内でもほぼ終息している。



■デルタ株派生の亜型

 WHOは、懸念される変異株と注目すべき変異株にはギリシャ文字のアルファベットで名前を付けている。今回、この変異株は警戒度が下げられたため、「カッパ」という名称も取り下げられた。このため感染研では旧カッパ株と呼んでいる。

 ラムダ株は20年12月にペルーで、ミュー株は21年1月にコロンビアで見つかった。どちらも従来株より伝播性が高くなっている可能性があり、WHOが注目すべき変異株に分類しているが、南米でも減少傾向にあり、国内では検疫も含めてほとんど検出されていないことから、より警戒度の低い分類となった。

 AY.4.2は、デルタ株の仲間だ。新型コロナウイルスの変異株には、WHOの命名のほか、ウイルスのゲノム(全遺伝情報)解析に基づく国際的な系統分類名が複数種類ある。より細かく分類しているのが「PANGO」で、「AY」と付くのはすべてこの分類による、デルタ株から派生した亜型だ。

 WHOはAY.4.2を含め、AYのつくデルタ株亜型をすべて懸念される変異株に分類している。

 AY.4.2は21年5月に英国で最初に報告され、10月25日現在、42カ国で見つかっている。9割以上は英国からの報告だ。

 英国健康安全保障庁によると、英国内のウイルスはほぼ100%デルタ株だが、9月27日の週には、解析したデルタ株のうちAY.4.2は約6%だった。それが10月18日の週には約11%になった。占有率が高まるということは、他の亜型よりもより増えやすい性質を持っている可能性がある。


 国内では検疫で見つかったが、10月28日現在、検疫以外では検出されていない。

 欧州疾病対策センター(ECDC)は、警戒を緩めた株は「警戒を下げた株」に分類し、それ以外の新しい変異株を監視中の変異株としている。9種類が監視中になっており、うちAY.4.2を含め5種類がデルタ株が変異したものだ。

 亜型を含め、デルタ株に生じた変異で、国内の感染者の急速な減少を説明しようとする仮説が提唱されている。

 国内の新型コロナウイルスは現在ほぼ100%デルタ株だ。新潟大学大学院自然科学研究科 の阿部貴志教授(バイオインフォマティクス)によると、10月18日までに公開された国内のデルタ株のゲノムデータ5万8446件を解析した結果、5万6416件(96.5%)は亜型AY.29だったという。

 一方、デルタ株の前に流行していたアルファ株は、大きくわけて5種類の亜型が国内で流行していたという。

 阿部教授と共同研究する国立遺伝学研究所人類遺伝研究部門の井ノ上逸朗教授は、酵素「nsp14」に注目する。

 新型コロナウイルスが増殖する際に遺伝情報(mRNA)が複製されるが、一定の頻度でランダムに複製エラーが生じる。エラーによって偶然、ウイルスが増えやすくなったり、感染しやすくなったりすることもまれにあるが、多くの場合、エラーが起きると増えにくくなるなどウイルスの生存に不利になる。



■「エラーで死滅」の仮説

 このため、新型コロナウイルスには、エラーを修復する働きを持つ酵素がある。それが「nsp14」だ。井ノ上教授らが感染研の公開しているゲノムデータを調べたところ、第5波では、nsp14の394番目のアミノ酸に変異が起きたウイルスの占める割合が感染拡大とともに増え、ピーク前から終盤にかけて100%近くになっていた。この変異があるウイルスを調べると、従来型に比べ、複製エラーが有意に多かったという。

「こういったデータから、感染者が急に減ったのは、エラーが蓄積し、ウイルスが増殖できなくなり、死滅したからではないかという仮説が立てられます」(井ノ上教授)

 今後、仮説を実証する研究を続けるという。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

※AERA 2021年11月22日号