◇返済は「常識的には不可能」
今回のTOBを通じて改めて浮き彫りになったのは、新生銀行の公的資金返済能力である。同銀行はいまだに3490億円の公的資金が返済できずにいる。08年に起きたリーマン・ショック後の連続赤字などによって、公的資金を受け入れるために当初、国に発行した優先株は普通株に転換された。同行が公的資金を返済するには、自社の株価を7450円まで高めなければならない計算だが、直近の同行の株価は1900円程度だ。
それもSBIグループがTOBに際して、1株当たり2000円という「破格に高い価格」(証券市場関係者)を提示したことによって、市場価格がそれに寄せる形で値上がりしたためだ。今年8月までの株価は1400円前後だった。
要するに「常識的に考える限り、公的資金を完済することは不可能と言っても過言ではない」(大手銀行役員)というのが新生銀行の現状である。そんな同銀行を高値で買収しようとするSBIグループの動きにも興味は尽きないが、それ以前の問題として、なぜ、新生銀行は「再生」の象徴と言える公的資金の完済ができないのか。
地銀経済活性化のための金融機能強化法に基づいて公的資金を投入された地銀を除いて、新生銀行と同様に経営破綻して公的資金を投入されたあおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)や、りそなホールディングス、足利銀行はすべて公的資金を完済している。
唯一、返済の見通しがつかないのが新生銀行である。そこで、同銀行の足取りを振り返ると、再生プロセスに入って以後、銀行としてのモデルが崩れていった独特な経緯をみることができる。
◇「問答無用」の貸金回収
2000年、旧日本長期信用銀行を買い取ったのは米国の企業再生ファンド、リップルウッド社が中心となって組成した「ニューLTCBパートナーズ」だった。買収金額はわずか10億円だった。そして、会長兼社長に就任したのが米大手銀行シティバンクの在日代表を務めた八城政基氏である。じつは、そのときから、新生銀行では銀行モデルの崩壊が始まったと言える。
貸出資産に公的資金で積み上げた貸し倒れ引当金の取り崩し益を目的とした融資先企業への貸し剥がしが横行したからだ。当時、この問題を取材したが、その手法は強烈だった。貸し剥がしを受けた企業の社長はこう語っていた。
「新生の行員から『当社は銀行ではなくファンドです。ファンドは脅かしではなく、ピストルの引き金を引きますから』と言われ、貸金回収に問答無用を通告された」
◇法人顧客の基盤が崩壊
このようなやり口で同銀行は貸金回収による貸し倒れ引当金の取り崩し益を積み上げて「好決算」を演出していった。その反動として生じたのは法人顧客基盤の崩壊にほかならない。
旧長銀に公的資金を投入して再生させた理由の一つとして、金融危機がまだ収まらない中での貸し渋りの阻止が挙げられていた。ところが、再生した銀行は貸し渋りどころではなかった。
貸し剥がしを受けて、他の大手銀行や地銀に救いを求めて窮地を脱した企業をその後に取材すると「今後何があっても新生銀行から資金を借りない」という怒気をにじませた声が返ってきたものである。
⚫公的資金を返済していない(あおぞら銀行は全額返済)
早く完済しましょう。
⚫自社株買いはしているが消却がされていない
自己株口の全株を消却しましょう。
⚫配当金が低い(あおぞら銀行は配当金は良い)
配当金を上げましょう。
⚫収益モデルがまだ不十分である
[東京 21日 ロイター] - 日銀は21日に公表した「金融システムリポート」で、新型コロナウイルス感染症が中小企業の財務状況に与える影響を分析した。コロナ以前から財務基盤が脆弱(ぜいじゃく)だった企業ほど、2023年度時点でのデフォルト率が高くなる傾向が分かった。
ここでのデフォルト率は、先 き1年以内に、要管理先以下へのランクダウン、3か 以上延滞、信 保証協会による代位弁済のいずれかに新たに該当する確率と定義している。
日銀は、約88万社の個社データを用い、感染症が中 企業のデフォルト率に与える影響について23年度までの財務状況をシミュレーションした。資金繰り支援策として導入された実質無利 融資は当初、元本返済・利払いが じないため、21─22年度のデフォルト率は抑えられるが、実質無利 融資の利払い負担が表れる23年度に幾分上昇する。
分析では、コロナ感染症前から財務基盤が脆弱だった企業ほど、20年度のデフォルト率の低下幅が大きくなっていることも分かった。大規模な支援策を背景に積極的な資金調達が行われ、借り入れた資金を手元資金として保有し続けているとみられる。もっとも、そうした企業は収益回復ペースの想定が緩やかであることから23年度時点でデフォルト率は高くなる傾向という。
日銀は、この分析結果をもとに、今後の景気の回復動向次第では、感染症の影響が大きい企業や、従前から財務基盤が弱かった企業への貸し出しに悪影響が及ぶリスクがあることを示唆した、としている。
金融システムの総括判断では、新型コロナウイルス感染症が引き続き国内外の経済・金融面に大きな影響を及ぼしているものの、全体として安定性を維持していると指摘。金融機関の経営体力が総じて充実している下で政策対応が効果をあげており、金融仲介機能は円滑に発揮されているとした。
先行きについては、感染症の再拡 や 国 期 利上昇に伴う国際 融市場と新興国経済の調整などの状況を想定しても、日本の金融システムは「相応の頑健性を備えている」とした。ただ、国際金融市場が大幅かつ急速に調整する場合には、金融機関の経営体力が低下して金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、実体経済の一段の下押し圧力として作用するリスクがあるとした。
特に注意すべきリスクとして、1)信 コストの上昇、2)有価証券投資関連損益の悪化、3)ドルを中 とする外貨資 市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化──をあげた。
(杉山健太郎 和田崇彦 編集:田中志保)