生活保護の申請「扶養照会」がハードルに DV加害者の元夫に連絡、身の危険を感じたメール2021/03/21 08:02  AERA dot.

 生活に困窮し路上生活を強いられても「生活保護は受けたくない」という人々がいる。役所が親族に扶養の意思を聞く「扶養照会」が、心理面の壁になっている。AERA 2021年3月22日号から。



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「生活保護は受けたくない」

 昨春から新型コロナウイルス禍で困窮する人たちを取材してきて、何度も聞いた言葉だ。年齢も性別も、関係なかった。

 都内で行われる炊き出しで出会った男性(30代)もそんな一人だった。コロナを理由に勤務先の工場を雇い止めになり、所持金が底をつきホームレスになった。つらくて死にたくなり、実際、薬を大量に飲んで死のうとした。そこまで追い詰められていたにもかかわらず、「生活保護はいやです」と言う。理由を聞くとこう答えた。

「子どもの時に親から虐待を受けていて何年も連絡を取っていない。そんな親に連絡がいって、自分の居場所がわかると何をされるかわからない」

■照会→援助は1%だけ

 生活保護は国民の生命と暮らしを守る「最後の安全網」だ。機能しなければ、命の危険に直結する。その制度を、路上に投げ出された人ですら「受けたくない」と感じている理由を、生活困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さん(52)はこう指摘する。

「生活保護申請の一番の阻害要因となり、忌避感の背景にあるのが、扶養照会です」

 「生活保護申請の一番の阻害要因となり、忌避感の背景にあるのが、扶養照会です」



 生活保護の申請書は、住んでいる市区町村の福祉事務所に提出する。申請を受けると福祉事務所では戸籍情報を基に、通常2親等内(親・子・きょうだい・祖父母・孫)の「直系血族および兄弟姉妹」に「援助は可能かどうか」という書類を送付する。これが「扶養照会」だ。

 同ファンドは昨年末から年始にかけ、生活保護利用を妨げる要因を探るため、都内で実施されたいくつかの生活困窮者向けの緊急相談会を訪れた人にアンケートを実施。20代から80代まで計165件の回答があった。

 回答のうち、現在生活保護を利用していない128人にその理由を聞くと(複数回答)、34.4%が「家族に知られるのが嫌」と答えた。また、生活保護を利用したことがある59人のうち、扶養照会に「抵抗感があった」と答えた人は54.2%と半数を超えた。理由としてアンケートには様々な声が寄せられた。

 扶養照会は戸籍をたどるなど膨大な手間がかかる作業だ。それにもかかわらず、扶養照会が実際の金銭的援助につながるケースはほとんどないことがわかっている。厚生労働省が2017年に行った調査では、扶養照会をした約3万8千件のうち金銭的援助につながったのは554件と1.45%に過ぎなかった。

 前出の稲葉さんは言う。

「扶養照会は生活保護申請のハードルを上げるだけで、有害無益であるといえます」

 実は、そもそも扶養の照会は生活保護の前提条件ではない。稲葉さんはこう話す。

「厚労省は、民法に基づく扶養義務者の扶養が保護に『優先する』という規定が生活保護法にあるので、扶養照会を実施していると説明をしています。しかし、これは親族が実際に援助した場合は、そちらが保護に優先するという意味で、親族に問い合わせをすること自体を定めた条文はありません。扶養照会は法的な義務ではないのです」

■「連絡しないで」反故に

 一方で厚労省は▽配偶者からDVや虐待を受けていた▽20年以上、音信不通▽親族が70歳以上──といった場合などは扶養照会しなくていいと各自治体に通知している。

 ところが、この通知が必ずしも守られているとは言えない実態が、稲葉さんたちが募った扶養照会に関する体験談で明らかになった。病気を抱えた年金暮らしの母親に連絡が行ったり、絶縁状態だった両親に扶養照会が行き申請者が身の危険を感じたりするケースもあった。

 何が起きているのか。大阪在住のシングルマザーの女性(35)が取材に応じてくれた。

「(元夫に)住所がばれてしまったので、うちに来られるのが一番怖いです」

 そう心境を吐露する女性は、10年前に夫のDVが原因で離婚。4人の子どもを抱え、飲食店などパートを掛け持ちして頑張った。しかし昨年7月、病気を発症し仕事を続けられなくなり退職した。生活が苦しくなり、11月に地元の福祉事務所に生活保護の相談に行った。

 対応した職員に事情を話し、元夫に扶養照会はしてほしくないと告げると職員は承知した。ただ、この時は手持ち金がオーバーしていたので申請には至らなかった。しかしお金が底をつき、支援団体ともつながったことで12月上旬、支援者と再び同じ福祉事務所に行くと前回と同じ職員が対応した。この時も女性は元夫に扶養照会をしないでほしいと念を押すと、職員は前回のことも覚えていて承諾した。女性は申請書の「援助者」を書く欄には、両親と兄の氏名と住所しか書かなかったという。



「元夫に連絡はいかへん、そう思ってました」(女性)

 それが今年1月、元夫からこんなショートメールが届いた。

<どういうことやねん。書類が届いたが、そういう環境になってるなら親権を戻して子どもを親が引き取りたいと言っている>

 パニックになった女性はすぐ支援者と一緒に福祉事務所に行き説明を求めると、職員の上司にあたる人物から「申請書にDVの記載がない」と言われた。身の危険を感じた女性は、すぐ転居したいと伝えたが、市営住宅は抽選で申し込みをして当選しないと入れないと告げられた。

「2回も約束していただいたのに、どうして……」(同)

 そもそも女性は、10年前に離婚した際も生活保護の申請に行ったが、「元夫に連絡が行く」と聞いてあきらめた経緯があった。その後、DV加害者に扶養照会は行かないと聞くようになったが、それでも不安と恐怖を感じていた。そうした中、支援者から「大丈夫」と聞いて申請を決めたという。女性はこう訴える。

「役所の不手際なのに、対応には失望しかありません。せめて、住まいを確保してほしい」

 なぜ、このような事態が起きたのか。女性が申請に行った福祉事務所に聞くと「個別の事案に対しては、すべてお答えできない」(担当係長)とだけ答えた。



■本人承諾得ず連絡ダメ

 今回のケースについて、生活保護問題対策全国会議事務局長の小久保哲郎弁護士は厳しく批判する。

「元夫は子どもに対する扶養義務を持ちますが、実際に扶養を請求するかどうかは子ども本人の自由です。子どもが未成熟の場合は、法定代理人である母親が請求することになり、その母親が拒否したのであれば、職員が扶養照会したのは論外です」

 その上で、扶養照会最大の問題は、本人の意思にかかわらず照会をしている点だと指摘する。

「扶養照会する際には同意書を取るなど実務の運用を改善すれば、こうした事態を防ぐことができます」

 そんな中、厚労省は2月下旬、扶養照会の運用を改善する通知を全国の自治体に出した。

 音信不通の期間を20年から「10年程度」にするほか、親族がDVや虐待の加害者だった場合に照会を控えるよう自治体に求めた。さらに、新たに本人が親族に借金をしている場合なども照会不要とした。だが稲葉さんは、今回の通知を「小手先の修正」と批判し、さらなる改善を求める。

「DVなどの加害者への連絡を明確に『照会を控える』としたのは一定の評価ができますが、全体としては微修正。『原則は連絡する』ということは変わっておらず、例外規定を増やしただけでは、根本的な解決にはなっていません。本来、扶養照会そのものをなくすことが一番理想ですが、まずは第1ステップとして、本人の承諾なしに勝手に親族に連絡しないことを求めます。これは、利用者の権利と尊厳を守る意味から重要です」

 緊急事態宣言が再延長され、生活困窮者が増えると懸念される。菅義偉首相は「最終的には生活保護」と国会で答弁した。だとしたら、使いやすい「安全網」を本気で検討すべきだ。(編集部・野村昌二)

※AERA 2021年3月22日号





若者の心にも貧困にもワンストップで寄り添う 専門家チームによる古民家での取り組み2021/03/20 16:00 

AERA dot.
 コロナ禍以前から、日本では若者の精神疾患や自死が問題だった。精神疾患を予防するための「早期支援」の取り組みが、日本でも始まっている。AERA 2021年3月22日号から。



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 下町風情が漂う東京都足立区の北千住。駅から徒歩5分ほどのにぎやかな商店街の路地裏に、若者のどんな悩みもワンストップで対応する相談センター「SODA(ソーダ)」はある。古民家を改装した明るい造りだ。

 SODAは医療機関ではなく、どこに相談したらいいのか分からない困りごとにも包括的に寄り添う。国内では先駆的な試みだ。

 中心となっているのは東邦大学と医療法人財団「厚生協会」のスタッフ。厚生労働省の科学研究費補助金などで運営している。相談は無料だ。

■チームで問題を整理

 まず精神保健福祉士が1時間かけて話を聞く。SODAは精神科医や公認心理師、保健師などでチームを作っており、必要があれば検討会で問題を整理していく。2回目からの面接は約30分。問題によっては病院や学校と連携する。生活困窮がからむ場合は行政の支援窓口につないだほうがいいこともあるが、一人で行ってもらうのはなかなか難しい。そんなときはスタッフが同行する。そうして半年以内をめどに、解決策を探っていく。

 相談者の平均は22歳で、中学生や高校生も多い。メンタルヘルスの不調、人間関係の悩み、お金のこと……。いくつも問題がからまっていたり、何となくモヤモヤしたりといった悩みもある。2019年7月の開設からこれまでに、相談者の数は400人以上にのぼっている。

 昨夏から通う埼玉県の男子大学生は、コロナ禍でオンライン授業となり、課題に追われるうちに眠れなくなった。大学をやめたいと思い始めたが、それを認めない親ともめた。


「もう耐えられない」と駆け込んだメンタルクリニックで、SODAを紹介された。医療だけでは対応できないとの判断だった。SODAでは家族関係の問題も大きいと見て、親に同席してもらった。メンタルの治療をしつつ面接を重ねたところ、学生は落ち着きを取り戻した。彼はこう話す。

「一時は、世界に自分の居場所がないような感覚でした。誰にも相談できずにいたけど、ここでは何を話しても否定されないのが大きかった」

■早期介入の重要性

 スタッフの一人で精神科医の内野敬さん(31)によると、精神疾患を発症するのは10代から20代前半が多い。世界的にも「早期支援」の重要性が唱えられるようになってきた。SODAが対象者を若者に絞っているのはそのためという。

 若者はメンタルの不調を感じても、みずから受診するのはハードルが高い。また、病気かどうかはっきりしないグレーゾーンは医療では対応しづらい。

「SODAが地域における『相談の入り口』になればいいなと思っています」(内野さん)

 北千住駅にはJRや東京メトロ、東武鉄道などが乗り入れ、アクセスが良い。大学が複数あることも北千住が選ばれた理由だ。土曜日を含む週3日は夜8時まで対応している。

 SODAを構想するうえで参考にしたことの一つは、国家規模で若者への早期支援をおこなっているオーストラリアだ。06年から始まった「ヘッドスペース」という相談窓口が全国に100以上ある。テレビCMも流れるなど、市民にとって身近な存在だ。SODAはその日本版で、専門家チームによる手厚いケアは「ヘッドスペース以上」と自負している。



 コロナ禍が起きる以前から、日本では若者の精神疾患や自死の問題が深刻だった。SODAの試みは小さな一歩かもしれないが、厚労省も注目している。「精神疾患と診断されている人を支えることはもちろんだが、誰でもかかりうるものなので予防や早期介入は重要な取り組みの一つと考えている」(厚労省精神・障害保健課)。こころのセーフティーネットのあり方を問い直す意義は大きい。(ジャーナリスト・磯村健太郎)

※AERA 2021年3月22日号






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井出留美 | 食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)





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