癌による痛みや、息苦しさという症状は、本人がつらいことはもちろん

周りの人もみているのがつらくなります。

 

そんな時、薬物療法として医療用の麻薬が使われます。

 

『一般的な痛み止めは効いてないから、強い痛みに効く痛み止めを使いましょう』

こう説明されて処方されます。

 

代表的なものがモルヒネ製剤。

他にもオキシコドン製剤、フェンタニル製剤、、、商品名もいろいろ。

薬の名前を聞いただけでは、医療用麻薬とわからないことも。

 

「麻薬???」

初めて処方される時は驚かれる人が大半でした。

そりゃそうでしょうね。

「そんな怖い薬、あたしゃ嫌だよ」そういう方もいました。

 

『きちんと使えば安全な薬ですよ。それをいうなら一般的な痛み止めの方が副作用が強かったり、使える限度もありますからね。』

そう言って、医師からさらに勧められる。

 

どっちが安全とか、副作用が云々とかいう問題ではないのだけれども・・・

 

痛みだけでなく、息苦しさもつらい症状のひとつ。

呼吸困難と呼ばれるその苦痛な自覚症状には

モルヒネが効果的であることが臨床研究の結果でも示されている、

ということを武器に、処方されることもある。

 

肺癌で呼吸困難となり、入院となった70代の男性がいました。

酸素吸入が必要で、動くこともままならない状況。

ベッド上の生活でした。

 

病棟の看護師さんたちは困っています。

何に困っているのかというと

『息苦しくてつらそうなのに、処方されているモルヒネを飲んでくれない』

と言うのです。

 

緩和ケアチームとしてラウンドをしていた私と医師が、病室に伺い

お話をしようと声をかけるのですが、声を出すことも辛そうで

険しい顔をして、うんうんと頷くばかりです。

話すことはないから、はよ出ていってと聞こえてくるような感じがしました。

 

その方の職業は医師。

「お医者さんだから?」

「お医者さんなのに!」

看護師さんたちは、好き勝手に言っています。

 

そんな肺癌で入院中のお医者さんが、お話してくれたことが1度だけありました。

「これ(モルヒネ)な、飲んでも一緒やねん。楽にならへん。逆にしんどくなるねん。だから飲みたくないねん。便秘もひどくなるしな。」

それだったら、もうしょうがない。飲みたくないって言ってはるし、効かへんゆうてはる。

こうなったわけです。

 

みんなが寄ってたかって

飲んだら息が楽になりますよ

動く前に飲んでみたらどうですか

と言うものの、本人は望んでないんです。

誰かが病室に来るたびに聞かされるそのセリフに

うんざりしていたんだと思います。

 

そもそも、体に入るものが自然のものではないのですから。

薬物を、その人の魂が受け付けなかったのでしょうね。

 

 

私の友人は、癌の治療中に全身の転移が分かり、何度も治療方針が変わって闘病をしています。

癌性疼痛もあり、医療用麻薬を服用していました。

その友人が、抗がん剤の副作用でつらい思いをしている時に、ドラムがやりたいと思い立ち

ドラム教室に通い始めたのです。

不思議とドラムを叩いている時には、痛みを感じないのだそうです。

「痛み止めが要らんねん」って言います。

 

目標は教室が開催する演奏会という名のライブに出ること!と言って楽しそうに話してくれるんです。

私は思いました。

演奏会って・・・半年以上先やんな。その時どんな状況になってるんやろう

勝手な心配です。

 

その友人が、無事、演奏会でドラムを叩けたのです!

感動しました。きらきら輝いている彼女の姿に。

「もう何十年も前から、やりたかってん。それを思い出してん。」

心の叫びです。

 

やりたいことをやる。どれだけ細胞が喜んでいることでしょうね。

 

病院ではコロナの影響で面会ができない状況。

入院していたお医者さんは

「家に帰る」

と言って、家族と過ごすことを決められました。

 

退院してから、訪問看護師さんの計らいで、自宅での状況をオンラインでつなげてくれたのですが

なんと!

あれだけ険しい表情しかみたことのなかったその方の

満面の笑み

をみることができました。

「自分のうちで、自分のペースで過ごしたかってん」と聞きました。

 

やりたいことをやるって、こんなにも人を輝かせるものなのですね。

元氣を取り戻せることを教えてもらいました。

 
 

 


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