17日G海老名と福島に赴く。昨年10月の演奏以来だ。宵闇の高速を飛ばし市街に入った。13号を北に折れ、庶民のお勝手『大政食堂』裏の駐車場に車を突っ込み、久々の『なまず亭』へ足早に向かう。とうに8時を回っていた。今夜はファイアー大道さんのライヴ。情報に寄れば東京から強力なサポート隊を伴って来るらしい。大いに楽しみである。店内に入るなりカウンターに大道さんを発見。彼女、僕に気がついて「あらぁ、いのっちさん。」と声をかけてきた。そうして丁寧にお仲間を紹介してくれる。面々の屈託のない明るさが間もなく始まるステージを期待させる。客席を振り返ると共演者のランブリン前田くん。いきなり「痩せましたねぇ。」のご挨拶。ははぁ、それは今の僕にとって一番お気に入りの褒め言葉ですぅ。そしてもう一組の共演者、CLUISERのシブケンさんもデジカメを持って現れた。「今晩は~、ご無沙汰ですぅ。」僕は懐かしい空気に嬉々として微笑んだ。どうやら役者は揃ったらしい。本日のメニューはブルース3連発。黒々とした濃ゆ~いステージの予感・・・。
客席は未だ空いてる。でも心配ご無用、尻上がりに詰め掛けるのがなまず流。奥のテーブルには華ちゃん。彼女は大道さんを師と仰ぎ、最近歌のみならずギターにもチャレンジしている。S水さん始めMaxwellStreet Bandのメンバー達も追っかけ到着すると言う。どうやらこの一角は倶楽部ファイアー郡山支部の応援席になりそうだ・・・。
なんとか間に合った後続の仲間たちと挨拶を交わすうちに、案の定、客席は次々に埋まっていく。いよいよ先鋒BLUES CLUISERの演奏である。思えば彼らの音に触れるのは昨年11月郡山はウッドストック以来。僕のガス欠寸前のブルース魂が、今まさに満たされようとしている・・・。軽快な滑り出し、久方ぶりの生ブルースが僕の乾ききった鼓膜に飛び込んできた。やっぱりいい。冬はしっかり煮込んだシャツフル鍋やぁ。腹の底からじわじわ暖まる。美味しいものなら何でもいける口だけど、最後はこいつに戻って来るって訳・・・。いつもながらの安定した出音。今日は更に気合を感じる。なるほど今回はファイアー軍団とガチンコ勝負。そういう緊張感もライヴには肝要だ。聴く者とってはまたとないチャンス。よし、もっと行け!CLUISER!・・・。途中ファンキーなリズムが繰り出され、Vo.ミッキーの思わせぶりな台詞。「へへへっ、去年のクリスマス。ジェイムス・ブラウンも亡くなりましてぇ・・・。」すかさず“So Good!So Good!I Got You!”と来た。あはぁ。面白いねぇ。J.B.ネタを入れ込むなんて、もぉ~、お茶目なんだからぁ!何気にCLUISER、リズムのバリュエーションが豊富で、ひとひねりしたナンバーが多い。だからステージに飽きが来ない。渋さの中に大人の洒落っ気が光るバンドなのだ・・・。
さて、中堅は趣きを変えてランブリン前田の弾き語り。ますます脂が乗るカントリィ・ブルース。頑なに戦前のルーツ・ミュージックにこだわる反骨のミュージシャン・・・と思いきや彼はいたってマイペース。
本人曰く「も~、大分酔っ払ってますっ。」確かにそんな風にも映るけど、はたして彼一流の照れ隠しか・・・。彼の歌によって坦々と描かれる、底辺に生きる者の人生の刹那。モノクロームの写真が被写体の存在を際立たせるように、彼のシルエットの背景には南部の土の匂いが湧き上がってくる・・・。
夜も更けていつしか店内は寿司詰め。立ち見さえ出ている。お膳立ては整った。いよいよ本日のメイン・イベント、ファイアー大道ブルース・ショウだ。壇上に立った彼女は仲間たちを呼び寄せる。江戸前ブルース軍団の襲来だ。Bストーミー万太郎、Ds中山幸也はあろうことかアフロのヅラで登場。のっけからもう弾けてる。G石田陽介はギタリストの定石ダーク・スーツ、Hp石田律子は白いベレー帽にワンピースの可愛らしい出で立ち。苗字で分かるように2人は夫婦。なんと微笑ましいことよ。ファイアーのきっかけに小気味良いテンポでスタート。淀みない入りはそれぞれが迷いのない証。心強い味方を得たファイアーのギターはいつにも増して力みなぎる。彼女の歌に続いてG石田亭主のソロ。これがまたハイテンション。ネックを振り振り、膝を持ち上げ全身でアピールする。拍手が足りなきゃぁ催促する。更にシールドを引っ張って客席に乱入。もうお客は大喜び。初顔見世でやってくれますなぁ。彼らが連発する正統派スタンダードはメリハリがあって揺るぎない。数多のステージで裏打ちされているからだ。お約束の“Hoochie Coochie Man”そして“Ain't Nobody's Business”がたたみかける。この曲はその昔、クラシック・ブルースの女王ベッシースミスが歌った曲だが、ジャズのスタンダードのように前振りの枕フレーズが付いている。大抵それは端折られてしまうのだが、ファイアーは「あの男に捨てられるくらいなら殴られてもかまわない・・・。」と解説つきで歌い綴った。正調は生では初めてだった。ブルースは元来貧しい黒人の歌だから、スラング混じりの米語で中には意味不明なものもある。その歌詞の中身を伝えようとすると少しばかり手間が要るものだが、ファイアーは怠りなくそのストーリィを物語る。その真摯さが聴く者を納得させるのだ。まさにブルースの伝道師。名もない黒人たちの日常のやりとり、飾り気のない言葉が独特のグルーブに乗って聴く者の心に届く。その偽りなきストレートさがブルースなのだ。まさにロックの原型。だから筋金入りのロック小僧ほどブルースの虜になったりする・・・。
さあ、今度はHp石田夫人のソロ。「どう見ても中学生・・・」というファイアーの形容通り小柄な少女の面影。しかしその実ハープを操る姿は実に逞しい。そして彼女も潔く場内乱入。矢継ぎ早にBストーミーも後に続く。彼はそのまま戸口に消えた。掻き鳴らす四弦の音のみが響く。彼はなんでも遠路名古屋からの助っ人。その心意気に感服ですっ。終いにDs中山のソロ・ドラミング。おっとアフロのヅラを放り投げた。露わになったスキンベットから汗を迸らせながらの荒法師。手品のように持ち替えたスティックが怪しい光を放った。なんたる仕掛け。皆が一団となって突き抜けるパフォーマンス。ライヴは頂点に達した。フィナーレでは客席からS水さんと華ちゃんが引っ張り出される。エンディングの定番“Sweet Home Chicago”。“Come On!”華ちゃんがパンチを効かしてシャウトする。S水さんがギター・ソロで応える。「ファイアー大道とその一味の演奏楽しんでいただけましたでしょうか。」ははぁ、一味!へりくだりながらもつわもの揃い、もちろん堪能させていただきましたよ。That's Entertainment!Blues Show!♪今夜此処でのひと盛りぃ、どっしりコクあるブルース汁ぅ、たらふく喰らうて満足じゃ~♪・・・僕が言うのもおこがましいが、大道さん着実に進歩している。そして常連客たちの心をガッチリつかんでいる。まさに地道に重ねた活動の賜物だ・・・。
帰り足、充分楽しんだライヴ。元とったなぁ・・・。でも、何故か少しへこんだ自分がいる。ここのところの演奏三昧。今の俺に甘んじ過ぎていた。ステージに頂上はない。もっともっと精進しなければ・・・。車中、G海老名との間に言葉は少なかった・・・。








