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 1月22日、年が明けて、あっと言う間に冬の新潟の時節。年に2回のジャズ・イベントのうち、ひとつはJAZZの日に因んでいるという。Januaryの頭文字Ja22日の数字を並べてJazzということらしい・・・。



会津若松を過ぎると、予報通りあいにくの空模様。立ちはだかる白い山並みを前にして身も引き締まる。しかし、除雪が行き届いていたおかげで、思いのほか車の足下はしっかりしていた。峠を越えて新潟の平野部に届いても、視界は極めて不良。降り続く雪で海岸線の方角が煙って見えない。このあたりは大概穏やかな天候のはずなのに・・・。それでも市街地に近づくと雪も上がり、活気に溢れた日本海有数の大都市が顔を見せる・・・。



 今回のステージは『砂丘館』、新潟はその度に初めての場所になることが多いが、大方アタリは付いている。日本海に向かって西大畑、ドッペリ坂を上りきったところ・・・・と言いながら、たどり着いたのは演奏30分前だった。砂丘館とは旧日本銀行新潟支店長役宅で、現在は市の芸術・文化施設として活用され、レトロな趣のある和洋折衷のお屋敷である・・・。裏口の関係者用駐車場に車を着けると、既に先のバンドが撤収を終えて帰るところだった。僕たちは隣接する蔵のギャラリーの入り口のから、基材を持ち込み、急いで準備を始めた・・・。



Pict0002_edited_2 ここはなにせ思いっきり町外れ、それなのに駐車場も無い。まして県外から来た僕たちにとっては究極のアウェイだ。館内には受付の中年の男女を除くと人っ子一人いない。そこに若い女性の2人組が訪れたかと思えば、2階のギャラリーに消えてしまった。ひょっとすると、ここで前代未聞の観客動員ゼロという不名誉な記録が生まれるかも知れない。恐ろしい妄想が頭の中に広がっていく。でも今更じたばたしてもどうにもならない。なかば諦めて開き直り、開演時間ぎりぎりまでふてぶてしくセッティングを続けていた。すると、中年の夫婦らしき二人連れが現れた。年の頃は団塊の世代前後、彼らは最前席を陣取って「あなたたちの紹介文を読んで面白そうだから来てみたのよぉ。」と声を掛ける。「へぇーっ、そーなんですかぁー。それは嬉しいなぁー。」僕が感謝の意を表すと、追っかけ幾つかの質問がたたみかけてきて、やりとりするまま演奏になだれ込んだ・・・。



 そうこうするうちに、いつの間にか7、8人のお客様。肩寄せ合うように一塊になっている。もちろんその中には、常連のS水さんの姿もあった。彼はいつもの優しい笑顔で僕たちを見守ってくれている。毎度本当に心強い味方。「なんでここになったの?」S水さんが不思議そうに尋ねる。来場に幾らか難儀したのだろう。僕は恐縮して「それが、わからないんですよねぇ。」と答えるしかなかった。それにしても、どうしてこれだけのお客様が、パンフレットだけをを頼りにここまで足を運んでくれたのか。一度も聞いたことのないバンド、まして見ず知らずの他県民の演奏を聴くために・・・。



 今回は、ウッドベースが欠席し、アッキーにドラムでカバーして貰ったものの、いつもより難しいユニット。リズムは強くなっても、音に奥行きがない。ギターは心なしか強めのタッチで頑張っている。・・・と、突然「ガゴーン!」という激しい衝撃音が響き渡った。あろうことかG海老名の伝家の宝刀マーチン000-28VSの4弦が切れてしまったのだ。ベースの存在感をカバーするために、低音をしっかり効かせようと思うあまりに、力まかせに引っ掻いてしまった!らしい。挙げ句の果てにスペアも用意していない。僕は仕方なしに笑いの種を振り蒔いて、なんとかその場をしのごうと、必死になっておちゃらける。一方G海老名は、すっかり開き直り、すっとんきょうな音を出したかと思えば、「しゃあないなぁ~。」とばかり、あれは無理それも無理と僕のオーダー曲をことごとく断る始末。最後に決めるつもりの"Airight, Okay, You Win"は、もう大やけくそのお笑いチンドン、とうとう本物のコミック・バンドになってしまった・・・。



 でも、そんな、必死になったり、開き直ったり、文句を言ったり、言い訳したりのドタバタ喜劇が、不思議とリアルにお客様を楽しませたようで、皆さん本当に喜んでいただいた。最後に会場を後にした若い女性の二人連れは、「本当に楽しかったぁ~。」と嬉しい言葉を残して行った。有り難い。演者冥利に尽きるとは正にこのこと。これがあるからやめられないのだ・・・。僕は撤収を始めながら、心地よい余韻に浸っていた。これほど豊かな幸福感があっただろうか。音楽的裾野の広さ、懐の深さ、そして人情の厚さ。真冬の雪国にあって、今までにないしみじみと心温まる思いに出会えた。新潟感謝!新潟万歳であります!



砂丘館 http://www.hanga-cobo.jp/sakiyu/