家の勝手口から入ると、シーがキッチンの隣の引き戸のガラス扉に飛びついて、隙間から得意の舌をちょっとだけ出した顔を覗かせました。
シー
ただいま
蛍光灯を消し、隣の玄関ホールの照明が漏れる薄暗い部屋の中で…
晩ご飯を食べて布団に入ると、掛け布団の足元の方から徐々に顔へ近づいて来ます。
胸の上まで来ると、いつも通り顔を舐めます。
執拗にピンク色の小さな舌で舐め続けます。
シーがなかなかやめないのはもうわかっています。
しばらく好きに舐めさせます。
すると、一瞬 止まって覗き込みます。
そしてシーは、自分の顔をほんの少しだけ斜めに傾けて私の顔に乗せました。
びっくりしました。
私の顔の上に、シーの丸い顔が乗せられています。
私たちの顔は重なり合っています。
シー
………
どうやらシーは、そのまま寝息をたて始めました。
私の顔の上で、寝てしまったのです。
人間同士でも、こんな風に顔を重ねることはそうありません。
たとえ愛し合う恋人同士でも…
しかし、人間ではないシーズー犬のシーが、今現実に、私の顔の上で寝ています。
動物がこんなにも心を開いてくれるとは…
シー
………
やがて、私たちの布団の下に鉄の車輪が設けられ、あの燻んだ赤ワイン色の垣根付きの舗道の、黄色の視覚障害者誘導用ブロックの線路を走り出しました。
シーの寝息を合図に、私たちの《銀河鉄道布団電車》は荒涼とした大地へと向かいます。
そしてそこには、頭に障害がある1人の男の子が立ち上がって、悲しい歌を澄んだ声で歌っています。
大地は夕陽に黄金に輝き、清浄な空気に包まれます。
私とシーの《銀河鉄道布団電車》が近づくと、男の子は微笑みさらに夕陽に向かって、澄んだ声で歌い続けます。
黄金の大地が微笑みます。
するとなんと、昨日電車の中で「銀河鉄道の夜」を小さな可愛い声で読んでいたツインテールの女の子が、《銀河鉄道布団電車》に乗車して来ました。
微笑んでシーを見つめます。
ご乗車いただきまして
ありがとうございます
どちらまで行かれますか?
………
パパのところまで
遠くに行った
パパのところまで
………
かしこまりました
《銀河鉄道布団電車》は、お客様のご希望ならどこへでも伺います
天国でもどこでも
必ず参ります
どうかご安心を…
………
そして
最後にクリスマスプレゼントとして
パパとママと一緒に
SENDAI光のページェントへご招待いたします
お嬢様の頭上には、ひとつだけピンク色のライトが点っておりますので
どうかお楽しみに…
ツインテールの女の子は、満面の笑みです。
クスクス笑いました。
そしていつのまにかシーが、女の子の頬をペロペロ舐め始めました。
やがて黄金の大地が奮い立ち、少女の微笑みに満たされます…
