日時:2024年7月5日(金)14:00~
会場:サントリーホール
指揮:ヤクブ・フルシャ
演奏:東京都交響楽団
独奏:五明カレン(佳簾)
曲目:
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調OP26
ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調WAB104「ロマンティック」
(コーストヴェット:1878/80年版)
感想:
前月に引き続き東京都交響楽団の演奏会で、やはりブルックナーの第4番を取り上げるとのことで、訪れてきた。
この曲については最近アマチュア訪問が続いていたので、プロレベルのブル4は久しぶりである。
5~6年前に上海で聴いて以来かと記憶する。
会場はサントリーホールで指揮者はこのオケの首席客演指揮者のヤクブ・フルシャさん、チェコ出身の方で、年齢は42歳と脂の乗ってくる年齢だ。
ウィーンやベルリンなど欧米の主要オケに呼ばれ、これから世界を背負う人材としての活躍となっており、都響にはコロナを挟んでしまったため7年ぶりの登場のようだ。
この日はコンサートマスターは矢部達哉さんで、昔から知っている彼がまだこのポジションにいることはとても安心する。
ただ今回は同一プログラㇺの2日目なので妙に洗練されてしまうのではないかと心配して臨んだが杞憂であった。
一曲目はブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番で、ソリストは五明カレンさん。
彼女も欧米の一流どころに呼ばれ数多く客演をしている。
写真だけの印象だと米国人かと勝手に思い込んでいたが、資料を読むと日仏のハーフで東京生まれのモントリオール育ちとのこと。
さて、出足から恐ろしいくらい魅力な音で一瞬にして魅了されてしまい鳥肌が立つ。
このホールの響きの美しさも手伝っているのだろうか?
そこへオケ側が優しく寄り添い、突如として吠える。
ソリストの優しい歌いに寄り添うクラリネットやフルートもとても優しい。
オケ側にサポートはとてもドラマチックに仕立てられていて、ソリストを支える。
ブルッフのコンチェルトを聴いた回数は少ないとはいえ、決して初めてではないが、こんなに引き込まれるのは初めてである。
続く第2楽章。
ここでも伸びやかなヴァイオリンの音色にやはり魅了される。
何よりソリストが情熱的というか情感たっぷりに演奏しており、その姿までもまた美しく感じる。
フルートやホルンの響きもほぼ完璧に近いほど柔らかい。
そしてフィナーレの第3楽章。
明るい有名なメロディだが、生き生きした音楽が鳥肌もので心地よい。
音楽を聴くってこういう嬉しさの体験なんだなと改めて思い出させてくれた演奏である。
さらにアンコールとしてソリストから、ピアソラの「タンゴ・エチュード 第3番」が演奏され、ピアソラらしい、リズム感あふれる音楽が奏でられ、私の記憶により強く印象に残ることになる。
後半はブルックナーのロマンティック。
今回はコーストヴェット版というやや珍しい版を使うようだが、基本はハース版とあまり変わらないらしく、版にこだわらない私にとっては気にするほどのものではないようだ。
ただプログラム資料によるとマエストロの師であったビエロフラーヴェク氏はチェリビダッケ氏の弟子であり、チェリビダッケ氏のブルックナー録音を多く聴いていて、その音楽に憧れも持っていたようだからチェリビダッケ好きの私にとっては願ってもない音が聴けそうなマエストロということが判明した。
ところで本番前に、ピッコロが何度も練習して幾つかの旋律を吹いていた。
日本のオケではあまり見なかった光景だが、それだけかの奏者にとってこの日の演奏が「挑み」であり、レパートリーの引き出しで対応しているのではないことが伝わり、本番がとても楽しみになる光景でもある。
さて、アウフタクトがあったのかどうかわからない静かな動きから「ブルックナーの開始」となる。
丁寧な音作りが行われて臨んできていることがわかる音色で、非常にきめ細かさを感じる。
そこへ結構大きな音でホルンが飛び込んでくる。
バランスが悪いのではという気がしないでもなかったが、明らかにストリングの響きとの対比を狙ったもので、ストリングの役割をしっかりと考えての対比である。
続く、フルートも同様に比較的大きな音で飛び込んでくる。
そのままややテンポを速めながら最初のピークを迎える。
第1ヴァイオリンを初めとしたストリングの響きがとてもきめ細やかで美しい。
全体としてブルックナーの音の波のうねりもしっかりと感じられ、何よりもオーケストラの一人ひとりの所作がしっかりとノッており、充実した演奏状態であることが感じられる。
プロのオケでこんなに充実している演奏姿を見たのは久しぶりである。
恐らくこのマエストロとのリハーサルで充実した音作りの時間を経てきたのだと推測する。
もちろんその充実ぶりは音楽にも現れ高い高揚感を与えてくれる。
第2楽章もやはり弦の充実が目立ち、ヴィオラやチェロの旋律が心地よく響く。
オーボエやフルートのさえずりも安定し、楽章後半のクライマックスも充実したエネルギーを伝えてくれた。
第3楽章に入り、やや速めのテンポが設定されるが、オケ全体が充実しておりホルンもトランペットもしっかりと応えていく。
この楽章でのクラリネットのソロは非常に安定感があり、曲全体をしっかりと支えていたような印象である。
そして第4楽章へ。
コンサートマスターを先頭にした第1ヴァイオリンの動きがより充実する。
マエストロのタクト捌きも充実感を感じさせ、さらに情熱をもって音を引き出していく。
曲の終盤を迎えても音のきめ細かさは失われず、輝き続けていたように思う。
そしてコーダを迎え、ストリング群はしっかりとした節を回し、曲を盛り立てていく。
チェリビダッケ的な刻みも期待していたが、違った形の印象的な盛り上げで、これはこれで魅了される音だ。
フィナーレが近づくにつれ、心なしかマエストロの表情には、充実の演奏を成し遂げつつある喜びと同時に、この曲の、このオケとの今回の作業が終わりつつあることに寂しさを感じているようにも見えた。
そして最後の音が消え、タクトが下された瞬間、堰を切ったかのような勢いの拍手でホールは満たされた。
マエストロはひとしきりの挨拶を終えた後、やや寂しそうに袖へ下がったが、少しだけ間をおいて再びステージに現れ、各プレーヤーを労っていく。
このプレーヤーを労う行為は、時には形式的にやっているように見える演奏会もあるが、今回は共に充実した音作りの時間を過ごした戦友をまさに労うかのような、リアルな労いがあった気がする。
そんな彼らを称賛する聴衆の拍手も全くエネルギーを落とすことなく長く続き、オケメンバーがステージから下がる間も、彼らを包み続け、聴衆の満足度の高さを象徴していた。
結局、コンマスとマエストロが再び呼び出されようやく聴衆は満足して終了となった。
今回私の数多あるブルックナー鑑賞歴の中でも、非常に印象の強い演奏になった気がする。
都響さん、いい演奏をありがとう。

