ユズリハ
昔私も大事な人に言われたことがあるのだ
ワタナベ ユズリハを知っているかと
ユズリハは時が来て 次の者が来て
その時ようやく自ら葉を落とすのだと
おそらく今打ちひしがれているのだろう
自分には才能がない 力がない
なぜこのようなことを今自分が任に
才ある人は他にも山のようにいて
私でなければ余程うまくいくだろうに
そもそもなんでこんな道を選んでしまったのだろう
向いてなどいなかったのだ始めから
早くここからおろしてほしい
もう十分だ これ以上は害だ
いっそ自ら退くと 辞めます そう
喉口まで言葉が出ているのだろう
だがそんなことは考えなくていいのだ
そこがあなたにとって
大き過ぎる服だろうが 力不足だろうが
単なる間違いだろうが
そんなことは何一つ構わないのだ
ダメならダメで代わるときが来る
その時まで一所懸命やればいいのだ
結果なんてどうでもいい
ましてや他者にどんな影響を与えるかなんて
微塵も思わなくていいのだ
足らなかろうが至らなかろうが
知るか そんなこと
ただひたすらに今 今だけに努めろ
ひとつひとつ進め
己の声だけに耳を向けろ
どうすれば何かを少しでも改善できるか
自分を好きになれるとしたら
それは一歩でも自分が変化したときだけだ
それだけだ
だからただ自分の成長にのみ気を向けろ
お前はユズリハなのだから
遅かれ早かれその時はくる
だが今お前がこの木この場所に宿ったのは
意味があることなのだ
もっといえば人生のある一点で
たとえそれが気まぐれだとしても
お前はこういう生き方を選んだのだ
もっと賢い生き方や安全な道もあったろう
でもお前は愚かにも一瞬の輝きにかけたのだ
後のことなど考えたならこんな道は選ばなかったろう
だから後のことも先のことも考えるな
辞めるなど口にする必要もない
決して自ら譲ることなど考えるな
しがみつけもがけくるしめ
いつか心の底から納得して
欠片の後悔もなく晴れ晴れと
台風が過ぎた今日の空のように
何の力もいらず自然と落ちる日がくる
その日まで恐れず全うせよ
恥ずかしい話
私もあの日からまだその真っ最中
お前と同じく 嵐の真っ只中なのだ
共に邁進しよう
私たちはただ
ほんの一枚のユズリハなのだから