テンペスト | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

テンペスト

やがて強風は嵐へと変わる

すべての眠らせた者を起こす

夜だけの話ではない

今まで眠りについた者もすべて

 

巻き上げた風は月に達す

それはコバルトの金属風

月を少女の手遊びのビーズほどに押し縮め

そのシュバルツシルト半径は8.2cm

 

この夜空にはそんな

眠気が閉じ込められた小さな星でいっぱいだ

 

やがて一人の痩躯のタキシードが立ちあがる

春はしゃれこうべ

この世の風はすべて彼の演奏から吹いていた

骨の指はカタカタと白鍵と黒鍵を行き来する

 

彼は不具の者 鼓膜をもたず

己の出す音の危うさ美しさを知らない

 

彼は暗いホールで一人

右手に赤い薔薇の花束

左手には片手間の愛

賞賛の嵐の中 立ち尽くす