稽古場
舞台の袖が黒いのは
その先の空間を無限に見せるため
稽古場の壁が黒いのもそうで
せめて創造的なものに携わっているという
心の担保のためかもしれない
この暗い空間に20年もいると
外の光が眩しくなる
人生を慎重にすら考えず
刹那的な興味で踏み込んだこの暗がり
外では金融資産の話で持ちきり
ここは何が残るでもない場所
無形のものと格闘し
最も創造的で最も非生産な場所
これはここはなんなのだろう
引き返すには先に進み過ぎた
それでもこの先で私に会える気もする
暗がりでしくしく泣く子供
そこに手を差し伸べ大丈夫だというために
一日を終えてスタジオの灯を落とす
黒い壁に囲まれた本当の闇のなか
立ち並ぶ仮装置の森から
138億年の残響は音もなく鳴り始め
私はまた命綱のない宇宙飛行士のように
浮かんで深く
落ちてく落ちてく