ピアノ
十本の指は
白鍵や黒鍵の上を
何遍も行ったり来たり
探していた
何が美しく 何が心に響かないか
何年も何年も
二つの目は五線譜の間を
何遍も上がったり下がったり
高々数センチの幅に
音符にさらに髭や付点を加え
何が心踊らせ 何の間尺なのか
白魚のような指もいつしか
幾千の春を知る梢と変わり
指輪も緩まり
隙間ができるころ
その黒い蓬髪が
鈍い白銀へ筋張るころ
数本の指は触れたのだ
白鍵と黒鍵の間にある無数の音と
どちらかの目は見たのだ
音符の重なりの間にない律動を
そして十本の指と二本の目は
それが何であったのか
白鍵と黒鍵と五線譜と音符の間を
更に加速し
自ずの耳と心への溝を埋めるべく
さらに激しく舞う
黒と白の世界を延々と今も