カメレオン | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

カメレオン

少し傾いた舞台袖で

出番を待ち望んでいる
色を忘れた茶色いカメレオンの男
別珍の幕の暗い手触り
 
舞台上は乾いた埃がピンに抜かれて舞う
だがここは少し湿って塩っぱい
数多の俳優の手汗と
飲み込んだ唾の名残がここにも
 
覚えたはずの台詞を口の中で何度も
舌でごたごたと撫で回す
前歯と上唇の間の気になる口内炎を
我慢できる程度の痛みを求めてなぞるように
 
違う台詞なんか俺はもう喋らない
忘れた色を思い出しにあそこには戻らない
粉々になって 軽さを纏いに あの埃のような
積み上がり続けた昨晩のテトリス
恐れるな負けてもゲームは続く
 
そう呟いて男は出番を待たず
滑らかにすり減った木の床の窪みを
この劇場で最も光る
舞台袖の床の小さな窪みを蹴って
暗転中の舞台中へと飛び込んだ