クルトン | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

クルトン

その子はシーザーサラダの中から

白いドレッシングをかき分けては

濡れたクルトンを必死に選り分けていた

怒りの目で 嫌悪の手付きで

かたや私はクルトンを好んで

苦手な箸でわざわざ一つずつ摘んで

口に運んでいた

彼の皿の右上にはクルトンが次第に広がる

得体しれず掘り起こされる遺跡みたいに

 

誰にでも戦っているものがあり

その相手が何であるか私たちは

互いに知ることができない

世界の危機と戦う政治家がいれば

クルトンと戦う子供がいて

どちらが大きく重要な戦いであるかなど

誰も決められはしないのだ

 

彼は戦っている執拗に

パンを揚げた小さな粒と

それは十字軍以上の聖戦であり

ゲツセマネ以上の祈りであり

アポロ以上のミッションかもしれない

彼は涙を溜め呻きながらクルトンを弾く

 

私はそれを横目に

レタスよりもトマトよりも先に

すべてのクルトンを食べ

あまつさえ彼の押しのけたのも食べたい