蜻蛉 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

蜻蛉

それは偉大なるオニヤンマの外殻

大昔に亡くなり今もなお

七色に輝き大地に悠然と横たわる

腐ることないキチン質の殻

 

透き通った複眼は世にも軽いセラミック

子供もそれを抱えてはさらなる空を見上げ

休みともなれば皆やってきて

想い出を語りながらその亡骸に寄り添う

 

口々にオニヤンマの勇姿や偉業

ときおり魅せたお茶目な失敗

などなど 流れる雲とともに

時に風でその外殻がかすかに揺れようものなら

蘇ったかもしれぬと大騒ぎ

 

類するギンヤンマやアカネも

もしくはアブやハチも

あのオニヤンマのように飛びたいと

いつしか憧れは薄い膜になり

大空をおおった

 

一面にマーブルの干渉縞がゆらぎ

皆またそれをみあげては泣きながら

ヤンマの永遠を讃えた

 

ヤゴはそれをみていた水の中から

己の跳ぶ姿を いまは空さえも遠く離れた

あのスクリーンに投影し

あそこに映る日を描いた

描きながらヤゴは脱皮を繰り返した

いくらか脱皮を繰り返したがヤゴはヤゴのまま

 

偉大なるヤンマの遺児 ヤゴ

人々は微笑みを浮かべながら今日も空を見上げる

ヤゴは水の中 脱皮を繰り返す

ヤゴはまだヤゴ

ヤゴはなにがちがうのかわからない

その水棲の六角の足をばたつかせ

脱いだ皮は水草にもつれて

いつかはあの空をと

しかしヤゴはふと恐れてもいる

もうこれが己の成体なのではないかと

水面になにかしらの油が浮いて

七色の干渉膜が輝いている

それはヤゴの見上げる空

ヤゴはそれが美しいと思っている