飛行機雲
飛べよ今こそあの空へ
その鋼鉄の肉体もて引き絞り
鎖を引き千切り憧れて
轟音を立てて引力圏から
今朝見た飛行機雲が
あれは一体どこから来たのか
今では薄く引き伸ばされて
紙テープみたいに翻っている
俺は家からそれを呆然とみあげている
開けてやれその窓を
だからもう解き放ってやれ
握りしめた拳や
目尻の皺や拭った涙
何十年もかけて
じめじめと育て上げた
心と呼ばれたものも
今ならからっと空に
鳥が降りてきてはそれをついばんでは
新しい歌へと変えてくれるだろう
窓を開いて人は
中も外も表も裏もなくなって
ようやくひとつになれるのだ
お前は横たわったユーフォニウム
風に白くなびくカーテンの下
フローリングの上に転がり
揺れる影を浴びる
もう鳴らすものもない
あとは聴くだけでいいのだ
いまごろどこを飛んでいるだろうか
高度30000フィートの成層圏では
すべてのものは冷たい風に変わるという
ほらもう飛行機雲はさらに薄くなって
空だかなんだかわからないものが広がる
みんなその下で今日も遊んでいるよ