蚊柱 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

蚊柱

私にとっては100でも
あなたにとっては1
みなそんなことばかりだ
もちろんその逆も然り
同じものをみながら
同じ価値を感じている
という幻想を日々共にみている

神社に手を合わせ帰る帰り道
川べりには夕暮れの空から
菜箸を立てたような蚊柱が二本
川面からオレンジの反光を浴びて
あれはすべて雄のユスリカなのだ
交尾のために一匹の
雌を迎え入れるため
円筒の蚊帳をつくって待っている
奴らは吻合も退化し
水も吸わず
数日の命
蚊柱をつくったあとは片っ端から
なくなるという
雌と出会えるのはたった一つの雄
それ以外はいったい
なんのために
蚊柱をみるたびに
神など信じられなくなる
あなたにとっては100でも
我々にとっては1であることが

蚊柱のために
手を合わせたのだろうか

行きしに蚊柱は
頭の上をついてくる
早足で歩いても短く駆けても
振り払うことはできず
すまないが私は雌ではないのだ
さりとて無神論者になる勇気もなく
黒みを帯びた夕陽の中を
数百のユスリカの雄としばし
蚊柱のひとつとなって
手で払いながら帰路を進む