新横浜から広島 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

新横浜から広島

怒りはリンパよりもはやい
滑らかに四肢に染み渡る
新横浜から広島までの
3時間半をその女の子は
喋り続けてました
なにかの唄か神話?じみた
少ない語彙と喃語の混合
出来の悪いマーシャルみたいな
スピーカーを父親は
抱きしめなされるがまま
ヒゲやら眉毛やらを
引っ張り撫で舐め回され
女の子は喋り続けていました
これぞ娘の証明とばかりに

一方でサッチーの
最期の言葉は
大丈夫
だったそうです
今から亡くなる人が
大丈夫
というならきっと大丈夫なのでしょう
いや逆に生きてる間が不丈夫で
日々は網目のごとく
メロン状の冠状動脈が走り
昨日のあなたの診断名はレモン病
だったそうです
いえずに収めた感情線がすえて
ひしめき黄色く変質し
命に別状はないとしても
みぞおちが揺れる上がる
ぴょん吉じゃあるまいに

くだんの件はお任せください
君ぃ 先方は君が思っているよりも
君の自信のなさをみぬぃておったよ
その口のはじの歪んで持ち上がる癖を
目を落として眺めておったよ
悪気のなさも含めて全部
はっ それらもすべて承知です
承知であと二駅まできたのです

娘は語り続けています
岡山から広島の間で
新幹線は時に傾き
ワゴンサービスはなりをひそめ
聴衆は黙ったまま
流れるトンネルと
止まる通路の間の座席に
坐骨神経痛の塊をはめ込み
やおら父親はよだれまみれた
ヒゲを持ち上げ
次おりますよ
はーい
娘はそれっきり黙り
満足そうにペンチのような
腕の間に収まっていました

広島にはつきましたが
夜で暗く思ったよりも
まったく辺りは赤くありません