ななほしてんとう | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

ななほしてんとう

朝起きて目を開くと
フローリングの床の上
ななほしてんとうが一匹
足を曲げてひっくり返っていた
昨晩はそこにいなかったろう
越冬に失敗したのか
それにしたってそんなとこで
むくんだ男の寝顔を
逆さになって一晩中眺めなくても
見つめ返せば
じっと見つめ返してくる
まぶたさえないその複眼で
一対の目でさえ見え過ぎるこの世を
瞬きもせずどう見てきたのか
なぜこの世を去るときに
生きてる間は自力でも取れない
逆さまの形をとるのか
セミもカブトムシもみなこぞって
いつひっくり帰るのか
力を抜けば本来逆さになる
そんなバランスなのか
だとしたら生きてる間は振り絞って
それをこらえて飛び歩くのだろうか
大変じゃないか
そしてなぜそんなに足を収めて
申し訳なさそうに小さくなるのか
この世の空間に占める自分の割合を
せめて少しでも小さくしてから行こうと
そう思っているのか
切ないじゃないか
いつ誰がみていない間に
そんな格好になるのか
誰があなたたちをそうするのか
指で弾くと
出来の良いコマのように
くるくると回り続ける
それは実家で使っていた
丹塗りの赤い星の椀
止まればこちらを見返してくる
ゴミ箱に捨てようと指に乗せると
驚くほど乾いて軽く
些細な力でかさかさと
崩れていきそうで
崩れてしまえばそれはもう
ただのゴミになってしまうわけで
もう一度床の上に
逆さに戻してそっと置く
そのまま家を出る
帰ってきた時にはきっと
もういなくなっているだろう