年越し
目をつむり
息を吸って
白い息を吐くと
一年が経っている
去年も同じ景色をみていた
玄関から白い雪の景色を
自らの重みで垂れ下がる
軒先きの顎のような雪
内に向かって生える牙の氷柱
それらの落ちて崩れる
ゴゴゴくぐもった低い音
オイルストーブのチキチキという
青い炎とその先の赤い炎
もとプランクトンの死骸である灯油は
意外と生温かい風を出す
あと数時間すると妹が帰ってきて
年越しの蕎麦とシャンメリーが出揃う
うちはシャンパンではない
アルコールの弱い家系だから
思い起こせば一年の様々な絵はよみがえる
あれもこれも
でも年越しの蕎麦を食べたのは一昨日
そんな気もする
帰ってから敷きっぱなしの布団の
掛け布団の上にダウンを着たまま寝転がり
ぼんやり見慣れた天井を眺めているドドド
また屋根から雪が落ちた
除雪車の振動も相まって
軽い地震のようだ
下の居間からは母親の弾く
のんびりとした途切れ途切れの幻想即興曲
弟の仕込みの包丁のリズム
義妹のコーヒーを飲んで笑う声
父親とわかるノシノシとした足音
目をつむって
息を吸って
白い息を吐けば
なんという速さ
これも昨日のことのように
来年も同じ景色をみているだろう