山手半周3 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

山手半周3

歩きながら思う。

最近Amazonをよく利用する。とても便利で、前は名前やメーカーもわからなくてなかなかどの店に置いてあるかわからなくて歩き回って探した品物が、Googleで調べれば名前とメーカーがすぐにわかり、即Amazonのページにリンクし、注文してそのまま数日後にファミリーマート版画美術館前店で受け取れる。

だから僕の欲しい物はいつもファミリーマート版画美術館前店に置いてある。家からファミリーマート版画美術館前店までの一本道を往復して歩けばいい。重要なのはその道だけで。

街まで出てうろつかなくては買えなかったものが駅ビルまでいけばよくなり、駅から街までの道が必要でなくなり、ファミリーマート版画美術館前店まで行けば買えるようになり道が一本になり、家まで届けてもらえるようになり家から極力出なくなり。

そう考えながら、田端まで歩いてきた。恥ずかしい話、なんと僕は田端で降りたことがなかった。20年住んでて山手線で降りたことがない駅があったなんて、恥ずかしいことに田端まで来て初めて気がついた。

東京に出たてのハタチの頃、寂しくてよく上野に行った。渋谷や新宿はカッコいい若者が多くて人が多くて行けば行くほど寂しくなった。長野から出た田舎者にとっては上野の土っぽい雑多さがちょうど良かった。

目移りする物の多さに興奮して、アメ横中を歩き回った。名前のよくわからないものをたくさん買った。あの頃は100メートルおきに怪しい中東アラブ系の人が立っていた。アラブ系であることを消そうとしてたのかみんな星の王子のような金髪で、浅黒い肌に金髪が浮いててそれがまた余計胡散臭かった。

彼らはみな、トランプをシャフルするような胡乱な手つきでカードらしきものを切りながら「ジュサセ、ジュサセ」と通りかかるたびに呟いてきた。よく聞けば「10枚千円」と言っているのだ。

迂闊に話に耳を傾けてしまうと、ちょっと隠れるように大通りを背にして陰に連れてかれ、10枚のカードを千円で買わされた。それは偽造テレホンカードで、使用済みの穴の空いたテレホンカードをアルミホイルのようなもので穴を塞いであって、10枚のうちの3枚ほどは実際に公衆電話が使い放題であり、あとの7枚は公衆電話に飲み込まれたまま出なくなるという代物だった。

公衆電話にカードが飲み込まれるとそのまま警察がやってくるという噂がまことしやかに囁かれていて、友達と使った時に本当に飲み込まれて出なくなりダッシュで電話ボックスから逃げた覚えがある。

歩き回ってアメ横でいろんな物を買ったけど、買うつもりもなかったあの偽造テレホンカードのことを一番覚えている。あの酢ダコの匂いのする生臭い路地裏で1000円で買った記憶が一番残っている。


ファミリーマート版画美術館前店でなんでも買えるようになった。便利だ。歩かなくてよくなったから。でもファミリーマート版画美術館前店で買うものに、あのアメ横を駆けずり回った挙句に買う必要のなかった偽造テレホンカード以上に体験と記憶の残るものが買えるだろうか。


歩くっていうのはそういうことなんだろうかって、考えながら歩いて、巣鴨まで来たあれ、おかしいな。左足の小指がちょっと痛いぞ。