小岩井農場より① | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

小岩井農場より①

「春」と聞いて真っ先に浮かぶのはなんでしょう?

普通は桜とかなんでしょうけど、僕は宮沢賢治の「春と修羅」です。なんだかずいぶんへそ曲がりな気もしますが。

あまりにも有名なのは序文ですが、それ以外でも賢治が書いたものには春の情景が多くて、ふと思い出します。

そんななかから「小岩井農場」の一節を。


……

たれも見てゐないその地質時代の林の底を

水は濁つてどんどんながれた

いまこそおれはさびしくない

たつたひとりで生きて行く

こんなきままなたましひと

たれがいつしよに行けやうか

大びらにまつすぐに進んで

それでいけないといふのなら

田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしまへ

それからさきがあんまり青黒くなつてきたら……

そんなさきまでかんがへないでいい

ちからいつぱい口笛を吹け

口笛をふけ 陽(ひ)の錯綜(さくさう)

たよりもない光波のふるひ

すきとほるものが一列わたくしのあとからくる

ひかり かすれ またうたふやうに小さな胸を張り

またほのぼのとかゞやいてわらふ

みんなすあしのこどもらだ

ちらちら瓔珞(やうらく)もゆれてゐるし

めいめい遠くのうたのひとくさりづつ

緑金(ろくきん)寂静(じやくじやう)のほのほをたもち

これらはあるひは天の鼓手(こしゆ)、緊那羅(きんなら)のこどもら

(五本の透明なさくらの木は
青々とかげらふをあげる)

わたくしは白い雑嚢をぶらぶらさげて

きままな林務官のやうに

五月のきんいろの外光のなかで

口笛をふき歩調をふんでわるいだらうか

たのしい太陽系の春だ

……



グローバリズムから英語を学ばなければ生きていけないかのような風潮も確かにありますが、それでも宮沢賢治を原語で読めるだけで、日本人に生まれて良かったなと思うわけです。


後ほどまた何編か。




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