閑話休題:智恵子抄より「晩餐」 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

閑話休題:智恵子抄より「晩餐」

すごい雨と風でしたね。

いつも、台風がくると思い出す詩があります。


「晩餐」
高村光太郎

暴風(しけ)をくらつた土砂ぶりの中を
ぬれ鼠になつて
買つた米が一升
二十四銭五厘だ
くさやの干ものを五枚
澤庵(たくあん)を一本
生姜の赤漬
玉子は鳥屋(とや)から
海苔は鋼鐵をうちのべたやうな奴
薩摩あげ
かつをの鹽辛

湯をたぎらして
餓鬼道のやうに喰(くら)ふ我等の晩餐

ふきつのる嵐は
瓦にぶつけて
家鳴(やなり)震動のけたたましく
われらの食慾は頑健にすすみ
ものを喰らひて己(おの)が血となす本能の力に迫られ
やがて飽滿の恍惚に入れば
われら静かに手を取つて
心にかぎりなき喜を叫び
かつ祈る
日常の瑣事(さじ)にいのちあれ
生活のくまぐまに緻密(ちみつ)なる光彩あれ
われらのすべてに溢れこぼるるものあれ
われらつねにみちよ

われらの晩餐は
嵐よりも烈しい力を帯び
われらの食後の倦怠は
不思議な肉慾をめざましめて
豪雨の中に燃えあがる
われらの五體を讃嘆せしめる

まづしいわれらの晩餐はこれだ



おそらく智恵子との生活の一場面を描いたものですが、なまめかしくもエネルギッシュな詩です。台風が来ると何やら血が騒ぐという、自然と身体の密接な関わりをよく描いていて、流石だなあと思います。

しかし気圧のせいか、昨晩は夕過ぎより眠くて仕方なく、ずっと寝てしまいました。ぐぅぐぅ




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