トヨタ「カローラ」が50年も売れ続ける理由 ここへ来て販売台数が急増 | 話題のニュースブログ

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 日本の自動車ユーザーで「カローラ」の名を知らない人は、ほとんどいないだろう。トヨタ自動車を代表する車として1966年11月に登場。1969年から2001年まで国内の車名別販売台数(軽自動車を除く)で33年連続トップに輝くなど、長らく「国民車」として親しまれてきた。来年、生誕50周年を迎えるロングセラーカーだ。

 近年は「プリウス」「アクア」といったトヨタのハイブリッド専用車の大ヒットに押され、軽自動車を除く車名別新車販売ランキングでは4位以下が定着していた(2011年5位、2012年8位、2013年5位、2014年4位)。ところが、ここへ来てカローラの販売が近年まれに見るハイペースで推移している。

 自動車販売協会連合会(自販連)によると、今年5~7月の車名別新車販売ランキング(軽自動車除く)でカローラはアクアに続く2位。8月もアクア、7月に全面改良(フルモデルチェンジ)されたばかりのトヨタの新型ミニバン「シエンタ」に続く僅差の3位(21台差の7715台)に食い込んだ。いずれもプリウスやホンダ「フィット」といったヒット車種を抑える大健闘で、6位以下をうろついていた今年1~4月と比べれば明らかに勢いがある。

 現行型カローラシリーズは2012年5月に登場した11代目だ。セダンタイプの「アクシオ」、ステーションワゴンの「フィールダー」、背高ワゴン「ルミオン」の3タイプで構成されている。今年3月末のマイナーチェンジで、デザインの一新や燃費の向上とともに、安全装備の充実などの大規模な改良を加えた。

 本格的な夏休みシーズンを控え、北海道や沖縄などのレンタカー需要の多い観光地での車両入れ替えが活発に行われたようなのでそれも販売台数の押し上げに効いているようだが、それを加味しても、マイナーチェンジ後のカローラシリーズの売れ行きは好調に見える。

 自動車業界内では、12月に4代目となる新型プリウスの投入を控えて「モデル末期となっている現行プリウスの販売落ち込み分を食っているのではないか?」という見方もある。ただ、現行プリウスも月販5000台以上をキープしているほか、足元では値引きアップなどの好条件を期待して引き合いは増加傾向にあるようなので、けっしてプリウスを食っているワケでもないようだ。

 カローラのロングセラーを続ける秘密の一つが、絶えず新しい客層の取り込みに余念がないことにある。いまでこそ「年配の人向けのクルマ」など、どちらかといえば保守的なイメージが強くなっているが、初代モデルは当時ではモダンなセミファストバックスタイルを採用。シフトレバーは当時主流だったステアリングコラムから伸びた「コラムシフト」ではなく、フロアから生える「フロアシフト」のみとし、マクファーソンストラット式のフロントサスペンションを日本製乗用車で初採用するなど、「斬新なクルマ」としてデビューしている。

 現行カローラでいえば、3月のマイナーチェンジによって、各種センサーや自動ブレーキなど複数の安全機能をまとめた衝突支援回避パッケージ「トヨタ・セーフティ・センスC」を一部グレード(1500cc、ハイブリッドの上級仕様)にトヨタ車で初めて標準装着化したのが、象徴的だ。

 一昔前は「安全でクルマは売れない」とも言われたが、時代は変わってきている。法人営業車として、もともとニーズの多かったカローラシリーズ。それもあるのか、1500ccの廉価グレードには「トヨタセーフティセンスC」はオプション設定となっているが、法人の間では「事故抑止に効果的で保険料負担軽減に効果的」と注目しているので、現行カローラの商品力アップにはすでに効果を表しているようである。気になるのは、「オプション設定となっているグレードでは装着率があまりよくない」という販売現場からの声である。

 現行カローラは、若い世代の取り込みにも成功している。時折、「ボディタイプの多さで台数を稼いでいる」と業界内で揶揄されることもあるカローラだが、シリーズ内の販売内訳をみると、圧倒的に売れているのはフィールダー。たとえば今年7月はシリーズ全体の6割を占めた。これを牽引するのが、イメージキャラクターに起用されている国民的人気アイドルグループ「SMAP」の木村拓哉さんだ。言わずとしれた「キムタク」である。

 フィールダーは2000年8月に9代目カローラセダンと同時にデビュー。源流は1982年に4代目E70型のライトバンがマイナーチェンジしたときに初めてデビューしたカローラ・ワゴンである。パーソナルユースのレジャービークル的側面も強調されていたが、どちらかといえば、仕事にも使える「貨客兼用」ニーズを狙っての投入というイメージも強かった。

 ただ、トヨタが先代フィールダーのテレビCMで初めて木村さんを起用してから、そんな世間のイメージも変わる。起用当時は販売現場も含めて、「なんであの国民的人気のキムタクがカローラのCMに……」と、不思議がる声が大きかったものの、「現行モデルに至るまでしつこいように起用を続けた結果、若いお客さまの中で何の抵抗もなくフィールダーを選ばれる方が目立ってきました」とトヨタ系販売店のセールスマンは言う。

 「『カローラ・フィールダー』というよりは、『フィールダー』という別のクルマのようなイメージが、CM戦略のおかげで定着してきた」(トヨタ系販売店のセールスマン)。20代前半の若い女性がフィールダーを選ぶケースも珍しくないというから、フィールダーが新たなカローラユーザー層の取り込みに成功しているのは間違いないようだ。

 続いては2013年の年間販売台数の推移を見てもらいたい。「なぜ2013年なのか?」と疑問が湧く人も多いかもしれないが、この年はカローラシリーズにとってエポックな年となったのだ。8月にアクシオとフィールダーにハイブリッドモデルが追加設定されたのである。

 8月までは年度末決算月で新車がもっとも売れる月といわれる3月のみ1万台を超えているが、ハイブリッド車販売がフルカウントとなる9月以降はすべて1万台オーバーとなっている。2014年になってからも、3月まで1万台オーバーが続いた。

 アクアでは小さいし、プリウスでは少々大きい、おまけにハッチバックだし……」と、ハイブリッド車の購入を躊躇していた消費者を「5ナンバーサイズ/セダン/カローラ」というキーワードがまさしく肩を押したといっても過言ではない。当時は2014年4月からの消費増税を控え、2013年末より高額商品ほど駆け込み需要が顕著となっていた時期。「時流にうまく乗った」ことは確かだが、それを利用しながらハイブリッド仕様を追加して新たなユーザーの取り込みに成功したのは歴然だ。

 ロングセラーモデルのマイナス面としては、代々の血統を各モデルに継がせることに重きを置くあまり、ユーザー層が固着化すること。販売台数が伸び悩んでしまい、最悪は販売終了を迎えてしまう。

 かつてカローラシリーズも8代目(1995~2000年)の時にキャラクターの固着化が目立ち、販売台数に関しては「販売のトヨタ」の意地にかけて奮闘したものの、時代背景の変化(ミニバンブームなど)もあり国内市場での販売終了が噂された。だが、9代目(2000~2006年)で「ニューセンチュリーバリュー」というコンセプトを掲げ、プラットフォーム(車台)とともにエンジンラインナップを刷新するなど大胆なモデルチェンジを実施し、見事にヒットモデルとなった。

 現行カローラの競合環境はどうか。現状で同クラスの5ナンバーサイズのセダンはアクシオのほかには日産自動車「ラティオ」、ホンダ「グレイス」の2台がある。ラティオはタイ製の逆輸入車で3気筒1200ccエンジンという、かなり特異なキャラクターで、比較検討車種にはなりにくい。

 ハイブリッドもラインナップし、宿敵になるのではないかとされたグレイスは、最近ガソリン車も追加。ただし直近8月の販売台数は1568台と、カローラ・アクシオに1000台以上差をつけられている。グレイスが性能面で決定的に劣ることはない。新興国向けセダンなので、新興国で好まれるために後席スペースはたっぷりしており、アクシオにはない後席専用空調吹き出し口などもある。

 何が足りないのかといえば、「継続性」とそれによって得られる既存ユーザーの乗り換えだ。グレイス以前の最後のホンダの5ナンバーセダンはフィット・アリアであったが、2009年に販売が終了し、グレイス登場までに6年ほど「開き」ができてしまった。車名がコロコロ変わるだけでなく、カテゴリー自体の中断期があれば、販売サイドも既納ユーザーの引きとめはなかなかできない。仮にモデルの継続性がなくても、「グレイス」ではなく「シビック」と名乗って発売すれば、状況はかなり変わっていただろう。

 その点カローラはいつの時代にもラインナップが続いているので、そのままカローラに乗り継ぐユーザーも多く、セールスマンも何の不安もなく販促アプローチすることができる。セールスマンに「カローラはなぜ売れているのか?」と聞くと、「それはカローラ店で売っているから」という禅問答のような答えが返ってきた。

 わかりやすくいえば、来年で生誕50年を迎えるカローラを扱うカローラ店は、膨大な管理ユーザー(歴代カローラを乗っている人)を抱えている。絶えずこの管理ユーザーに乗り換えを促進し、その中から受注を獲得することで販売台数のベースを作る。それにフィールダーやハイブリッド系などの新規ユーザーを上積みすることで、常に安定した高い販売台数を維持している。

 多く抱える管理ユーザーに代替え促進すればいいといってもそんなに生易しいものではない。「クルマの白物家電化」が進み、世の中のクルマへの興味が薄れるなかでは、走行距離が10万㎞を超えるとか、決定的な不具合が起きないかぎり、代替えの検討を始めないユーザーが結構目立つとのことだ。

 つまり「クルマを欲しがる人に売るのではなく、買う気にさせる」ために、各顧客の購買動向を研究し、適切なタイミングで営業マンが適切な車種で代替え促進を仕掛け、「買う気」にさせなければ、なかなか思うように販売台数の基盤を作ることはできない。このあたりの営業マンが持つノウハウについては、もちろん個人差はあるものの、「販売のトヨタ」らしく、全般的にトヨタ系ディーラーのセールスマンの力量は、他メーカー系ディーラーのセールスマンに比べ、頭ひとつもふたつも抜きん出ている印象が強い。

 カローラの過去5年間の販売台数推移を見てもらうと、2014年1~3月の消費税の8%引き上げ前の駆け込み需要や、それに伴う同年4月と5月の低迷など、市場環境の特別な変化がなければ、ほぼ毎年同じように安定した販売を繰り返しているモデルでもある。まさに「継続は力なり」とはこのことだ。余談だが、なんでも代々カローラを乗り継ぐユーザーの多くは、ハイブリッド仕様には関心が薄いケースが多いという。

 ただフィールダーと競合するホンダ「シャトル」について、今年8月の販売実績をみると、6台という僅差でフィールダーが敗れている。「車名にカローラがあるかないかはやはり大きい」とセールスマンは強い口調で語ってくれた。

 日本市場向けの現行カローラは、海外市場向けモデルとは完全に独立した、ほぼ国内専売モデルとなっている。日本市場と海外市場では、カローラの平均ユーザー年齢は日本市場が著しく高いのは前述したとおり。先代までは、細部について国内外や海外仕向け地などで異なったのだが(とくに先代は結構違っていた)、基本部分は共通だったので、全体的に中途半端なイメージも強かった。

 ところが現行日本仕様では、日本のユーザーに合わせたモデルの開発が行われた。Aピラーの見切りの良さなど視認性の向上や、つかみやすさを考慮した長いプルドアハンドル、そして位置も含め操作性が向上した空調操作などを採用するなど、日本のユーザーニーズを最優先した実用性の追求が行われている。

 実は筆者は歴代カローラを30年乗り継ぐ生粋のカローラユーザーだ。国内専売ともなれば、コスト面での制約も大きいはず。ダッシュボードにソフトパッドを採用していないなど、絶対的なコストダウンは否めないが、初めて現行前期モデルを見たときに、限られたなかでカローラとしてのオリジナリティを追求し続けた開発スタッフのオーラが強く伝わってきて、筆者は即座に先代モデルから現行前期モデルへの代替えを決意した。

 現行カローラの関連資料に「原点回帰」という言葉があった。先代モデルに比べ、最小回転半径を小さくするなど、歴代モデルの良さを見直したのである。歴代カローラの変遷を開発スタッフで共有して、それを参考にしながら、最新トレンドや現状のメインユーザーのニーズをくみ上げて開発しているのを現行モデルから十分感じることができた。欧米メーカーではこのあたりの意識の共有や、技術伝承というものがしっかりできている反面、日本車メーカーは苦手としている。

 しかも前期モデルではLEDランプの採用など、もう少し新機軸的なものが欲しいなあと思うとともに、コンソールボックスのフタは少々安っぽいなあとも思っていたら、マイナーチェンジでしっかり変えてきた。「ユーザーからの聞き取りをしっかりしている」と感じた筆者は、トヨタセーフティセンスCを採用したことも手伝い、短期間でのマイナーチェンジ後のモデルへの代替えを決意した。

 カローラシリーズは何もここへきて販売が急に好調になったのではなく、継続的に安定した高い販売台数を維持してきていた。常に新規ユーザーを呼び寄せる「仕掛け」を考え、採り入れるとともに、歴代モデルのテイストをしっかりと入れ込むことで、既納ユーザーの代替え促進も行う。

 カローラはもちろんレンタカーや法人営業車などへのフリート販売も目立つ。ただ、月に2000台も売れればヒット作と言われるなかで、人気が低迷するセダンボディを採用するアクシオだけで月平均3400台(2015年1月~8月)も販売する底力は、さまざまなものが複合的に合わさって形成されているのである。